FP提唱の「医師のマネープラン」は非現実的
ときどき、医師向けの転職雑誌の特集で、医師のマネープランを見かけることがあります。将来の収支や資産状況を予測したキャッシュフロー表を用いて、収入と支出を将来にわたって予測します。例えば次のようなモデルケースです。
●医師(45歳)、妻(43歳、専業主婦)、長男(14歳)、長女(9歳)
●年収 1800万円(手取り年収1300万円)
●生活費 400万円
●住宅ローン 3000万円(残20年)
●貯蓄・投資 3000万円
●長男…小学校(公立)→中学・高校(私立)→私立医学部(下宿)
●長女…小学校(公立)→中学・高校(私立)→私立文系(自宅)
このケースの場合、65歳での完全リタイアを前提にすると、80歳前には貯蓄がゼロになるそうです。このような老年破産を回避するために、ファイナンシャルプランナー(FP)が住宅ローンや生命保険の条件見直しや資産運用等の対策を説明しています。しかし、残念ながら根本的な考え方が間違っているため、何ひとつ問題点が解決していません。
ファイナンシャルプランナーの最大の過ちは、資産運用と言っても「お金を増やすこと」しか考えていないことです。このような解決策では「年間生活費×無職の期間−公的年金」で算出される金額の貯蓄が必要となります。そして、往々にして必要とされる金額は巨額となるため、貯蓄したり資産運用で殖やすだけでは実現が困難です。
また、単なる銀行預金による貯蓄は、インフレに弱いという欠点もあります。日本は1990年代のバブル経済崩壊以降、デフレに悩まされ続けました。今の40歳台以下はインフレ経済の経験がありません。このため、インフレの怖さを実感できないのです。しかし、経済学の本を紐解くと、本当に困るのはデフレよりも制御できないインフレです。少なくとも永久にデフレが続くことはあり得ないので、資産が銀行預金しかない状況はできるだけ避けるべきだと考えます。
必要なのは「お金を生み出す仕組み」を作ること
お金を増やすことだけでは、リタイア後の経済的安定のための解決策とはなりにくいです。私が考える最も理想的な解決策は、「お金を増やすこと」ではなく「お金を生み出す仕組みをつくること」です。例えて言うと、金の卵ではなく金の卵を生むニワトリを獲得するのです。
お金を生み出す仕組みをつくるためには、不動産・金融資産・ビジネスなどのさまざまなパーツを利用する必要があります。しかし、残念ながら医師に最適化した解決策を指南できる方は、ファイナンシャルプランナーも含めてほとんど存在しないのが現状です。
私たち医師は医療の専門家なので、他業種の専門家を妄信してしまう傾向にあります。ファイナンシャルプランナーはお金の専門家です。専門家であるのなら、自分たちがそうであるように、きっと責任ある仕事をしてくれるだろうと思ってしまうのです。もちろん、枝葉の対策は指南してもらえるでしょう。
しかし、ファイナンシャルプランナーが、人生の根幹に関わる戦略まで教えてくれることはありません。彼らが教えてくれるのは、教科書に載っている一般的な知識のみです。優秀なファイナンシャルプランナーであっても、彼らの意見は次の理由でほとんど参考になりません。
●ファイナンシャルプランナーには、医師のキャリアパスを理解できない
●ファイナンシャルプランナー自身が、資産運用をして成功している例は稀である
アドバイスはほぼ机上の空論…「お金の専門家」の実態
医師のキャリアパスは特殊です。このため、医師としての実体験がなければ、正確にキャリアパスを理解することは難しいです。つまり、医師でないファイナンシャルプランナーが、本当の意味で私たちのことを理解することは困難なのです。
また、ファイナンシャルプランナーの言うことには、机上の空論が多いことも問題点です。実体験での裏付けがないのに、彼らは教科書に書いていることをそのまま人に伝えてしまいます。このため、アドバイスする内容に現実味がないのです。おまけに、単に教科書に載っているからという理由で、その通りにしても絶対に結果を出せないようなことを平気で勧めてきます。
本当に有用なアドバイスをできる優秀な人であれば、ファイナンシャルプランナーなどしなくても自分で資産運用して生きていけるはずです。そのような能力がないからこそ、ファイナンシャルプランナーとして稼がざるを得ないのです。
このように専門家と言われる人であっても、実力を伴っていない方が非常に多いです。専門家という肩書を鵜呑みにして、自分の人生に関わる判断を他人に任せてしまうことは非常に危険だと思います。こればかりは、専門家と言われている人を妄信してはいけません。自分で考えて行動に移す力を養う必要があるのです。
ファイナンシャルプランナーには、医師のキャリアパスを踏まえた提案は不可能と心得よ