日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

労働事件は訴訟を起こされる前に解決する

多くの中小企業は「それで証拠は?」に答えられない

 

「いままで何度も指導してきたのに、これですか」

 

不当解雇ということで社員から訴えられた社長夫婦から何度も耳にした言葉だ。

 

誰だって社員には末永く、かつ気持ちよく勤務してもらいたいと考えるはずだ。一度や二度の失敗で社員を解雇するような社長なんて普通はいない。変わらない社員の態度に腹を立てつつも、なんとか我慢しながら指導を行い、社員の成長を期待するものだ。

 

もっとも、社長といえども人の子だ。何度言っても改善が見られないと、ちょっとしたことで感情が爆発して「もう許せん。解雇だ」となってしまう。しかし、これだと「不当解雇」として、社員から訴えられることになる。

 

私のところに相談に来られた社長はみな口をそろえて、これまで何度もその社員を指導してきたことを述べる。実際、指導してきたのだろう。だが、「指導したことの証拠になる書面などはありますか」と質問すると、「すべて口頭での指導で」ということになりがちだ。

 

これでは裁判所からの「具体的にどういう指導をしてきたのですか」という質問に答えられない。社長がいくら情熱を持って指導したことを語っても、耳を傾けてもらえない。

 

結果として訴訟に負けてしまう。

 

経営とは、先を見据えた一手を打つことである。労働事件でも同じだ。仮に事件になったときのことを見越した一手を社長は打たなければならない。カタチなきものの争いだからこそ、カタチの有無が決定打になってしまう。

 

このように訴訟になると、多くの場合、社長は負ける。だから訴訟を起こされる前に問題を解決できればこれに越したことはない。

 

島田 直行
島田法律事務所 代表弁護士

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