相続税の特例でよく耳にする「小規模宅地の特例」。さらに相続により空き家になった不動産を相続人が売却する際の「譲渡所得3,000万円特別控除」。2つの制度の関係性について、相続税申告を数百件経験した相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の戸﨑貴之税理士が解説します。

長男、怪我をした母の介護で頻繁に実家へ

今回は、相続税申告とその後、空家になった実家を売却した際の税務のケーススタディを紹介していきます。まず今回の登場人物は下記のとおりです。

 

【登場人物】
母…被相続人
長男…相続人(既婚・持ち家)

80代後半の母は一人暮らしをしていましたが、高齢のために足腰が弱くなり、自宅で足を怪我してしまいました。
 
怪我が原因で要介護に…(※画像はイメージです/PIXTA)
怪我が原因で要介護に…(※画像はイメージです/PIXTA)

そのため、長男は母の日々の面倒を見るため、週に4日以上は通い、実家に泊まることもありました。また、そのような居住実態があったため、長男は実家を住民票に変更しました。

長男の住民票の登録を変更してから、3ヵ月後に相続が発生しました。

 

さて、ここで論点となるのが「特定居住用の小規模宅地の特例」を使えるかどうかです。適用できるかどうかは相続人の「居住の実態」となり、具体的なポイントは以下の通りとなります。

 

・長男は1週間のうち、半分以上は実家にいることがあり、泊まることもあった
・相続の直前に登録上の住所は実家に変更している
・長男の家族は長男宅に居住

 

小規模宅地の特例として、同居の判断は形式ではなく、すべて実態として同居していたかどうかにつきます。

 

そのため、今回の事例を鑑みた場合、相続の直前に住所を変更したことは、同居の期間は関係ありませんので、期間は論点にならず、最も重要なことは、果たして「長男の本拠」はどこにあるかということです。日数としては実家にいることもありますが、それは母親の生活を介護支援することによる一時的なものであり、長男の家族は依然として長男宅に居住し、長男自身も相続が終わってひと段落したら長男自身の家に戻る予定でした。

 

そのため、実態としては同居の状態になく、小規模宅地の特例は適用せずに申告を終えました。

 

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