相続税の特例でよく耳にする「小規模宅地の特例」。さらに相続により空き家になった不動産を相続人が売却する際の「譲渡所得3,000万円特別控除」。2つの制度の関係性について、相続税申告を数百件経験した相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の戸﨑貴之税理士が解説します。

相続後、空家になった自宅を売却することに

相続後、空家となっていた実家を売却することになりました。

 

相続により取得した空家の譲渡所得に対する3,000万円の特別控除の特例があります。今回のケースでも、実家を相続した長男はこの特例を適用したいということになりました。

 

こちらの特例についての適用要件を確認しておきましょう。

 

・被相続人が相続の時点で一人暮らしである
・昭和56年5月31日以前に建築された建物が対象
・相続発生から売却の時点まで引き続き空家状態を維持すること
・売却金額が1億円以下であること

 

主要なポイントは以上となります。

 

空家譲渡の特例を受けるためには、家屋所在地の管轄する役所へ必要書類を提出し、「被相続人居住用家屋等確認申請書」の発行を受けることが必要となります。

 

今回の事例では、相続税申告における小規模宅地の特例においては、実態として同居状態にはないということで適用を受けませんでした。

 

その判断から、空家譲渡の特例においては、主要要件の1つめである「被相続人が相続の時点で一人暮らしである」要件を満たすものであると考えられるのではないでしょうか。

 

しかし、空家譲渡の特例の中における「一人暮らし」の定義は、「故人の住民票」と「相続人の住民票」の確認のみでなされ、完全に形式的な判断で済まされてしまうこととなっています。

 

各役所(地方公共団体)から国土交通省への問い合わせにおいても、住民票のみでの判断を要求しており、事実として登録者以外の同居人がいたかどうかを役所側が調査することまでは求めていないと回答しております。

 

つまり、今回のケースにおいては、長男が住民票を実家に変えてしまったことにより、空家譲渡の特例の判定上では、「同居」とみなされ、特例を受けることができないという結論になってしまいました。

 

■まとめ

相続税の申告においては、法人とは異なり、故人や相続人の様々な個別事情が絡み合い、白黒つかないグレーな部分が論点となり、実態がどうであったかを判断していく作業が必要となり、実態主義が採用されております。

 

一方、空家譲渡の特例については、役所側の負担を鑑みてのことなのか、完全に形式主義での処理をされています。

 

今回の事例では、小規模宅地の特例も使えず、空家譲渡の特例も使えないという結果となり、非常に不合理な結果となります。長男としては何か悪意があって住民票を変えたわけではないため、空家譲渡の特例においても実態主義により同居の判定基準を設けるように行うよう改正すべきではないかと思います。

 

このように制度上での細かい要件で税金に対する影響は非常に大きいことから、相続や、相続に伴って将来的には自宅を売却する可能性がある方は、相続発生前のなるべく早い段階において専門家である税理士への事前相談の機会を設けることが重要となります。

 

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