両親が離婚をしても親子関係は消えません。どちらが親権をとろうが、両者から相続できます。では後妻がバツイチで、前夫との子を連れて、新しい夫と結婚するとどうなるのでしょう? 連れ子と新しい夫との間には、養子縁組をしない限り親子関係は生じません。こうしたちょっと複雑な関係が相続トラブルにつながるのです。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
「これはいけませんね」後妻の哀しい勘違い。それは…
友里恵さんがローンの貸出銀行に電話をかけて聞いてみると、ローンには拓也さんの生命保険が掛けてあったので、拓也さんの死亡によって保険金が出て、ローンは完済されたということでした。
友里恵さんは、「これでローンを返さなくてよくなったのだから、1400万円のお金は全部京子の教育に使うことができる、拓也さんがお金を残してくれてよかった」と天国の拓也さんに感謝しました。
ところが、友里恵さんが、聖子さんに連絡を入れ、「住宅ローンは完済になったから、約束通り、マンションの名義は聖子さんに移転します」と伝えると、聖子さんは「それはありがとう。でも、相続はどうなっているのかしら」と聞いてきました。
友里恵さんは、聖子さんは離婚しているので相続権はないだろうと思っていましたから、その旨を伝えると、聖子さんは、「そのとおりよ。でも剛の分があるわ」と答えます。「拓也さんの財産目録を作って、1週間以内に私に送ってちょうだい」と言われてしまいました。
心配になった友里恵さんは、長野の弁護士さんに相談に行きました。事情を話すと、「拓也さんの戸籍謄本を取ってきてください」と言われます。そこで、翌日、戸籍謄本を持って弁護士さんのところで相談に出かけました。
すると、これを見た弁護士さんは「これはいけませんね。拓也さんの相続人は、あなたと剛さんの2名です。京子さんは養子縁組をしなかったので、相続権はありません」と説明しました。
友里恵さんが、「それは1400万円の預金を剛さんと半分に分けないといけないということでしょうか」と尋ねると、弁護士さんは「残念ながらそういうことになりますね。京子さんに何もいかないのはかわいそうですが」と答えてくれました。
連れ子がいる場合、養子縁組をしておかないとこういうことが起こります。拓也さんが亡くなる前、実の親子同然の生活をしていても、養子縁組をしていなかったため、一銭も相続できなくなってしまうのです。
青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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連載きれいに死ぬための相続の話をしよう~残される家族が困らないために必要な準備