もし、上記のいずれかで行うかが明記されていなかった場合(もしくは明示的に合意されていなかった場合)に、どちらと解釈すべきかは問題となります。この点について、判断したのが東京家庭裁判所昭和47年11月15日審判です。
この審判例では、遺産の一部分割が行われる場合というのは、原則として上記②(一部分割した遺産と残余の遺産をトータルで計算して、各相続人が法定相続分(もしくは合意した相続分)を取得できるよう残余の遺産分割を行う)と解釈するのが合理的であって、特段の事情がある場合には、一部分割された遺産を除外して残余の遺産分割を行うべきと判断しています(以下審判要旨です)。
「残余財産の分割において、遺産全体の総合的配分の公平を実現するために、残余遺産についてのみ法定相続分に従つた分割で足りるか、一部分割における不均衡を残余遺産の分配において修正し、遺産全部について法定相続分に従う分割を行なうべきかが問題となる。
この点については一部分割の際の当事者の意思表示の解釈により定まり、共同相続人が一部分割の不均衡をそのままにし、すなわち一部分割における自己の法定相続分に不足する部分については各当事者が持分放棄あるいは譲渡の意思で一部分割を行なうときは、残余遺産につき前者の方法によることを承認したものとみられる。
このような特段の意思表示のないときは、残余遺産につき後者の方法によることを承認したものと推認すべきものと解される」
以上を踏まえると、本件設例では、弟が、兄に対して「預金は一部分割後に遺産分割から除外して、後の不動産を法定相続分で分割する」という意思を明示していた場合は、弟は前言を翻して主張することは難しいといえます。
いずれにしても、遺産の一部分割を行う場合は、残余の遺産分割との関係を協議書等でしっかりと明記しておくことが重要です。
※本記事は、北村亮典氏監修「相続・離婚法律相談」掲載の記事を転載・再作成したものです。
北村 亮典
こすぎ法律事務所 弁護士
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