相続というのは、プラスの財産だけを引き継ぐのではありません。被相続人の財産状態「すべて」を相続するのですから、マイナスの財産も相続することになります。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
「借金は勘弁してくれ」少ない親戚が集ったものの…
でも、四郎さんは会社をつぶした後は、親戚から身を隠すような生活を送っていたこともあり、葬儀に出席したのは、他には三郎さんの妻の優子さんだけでした。義姉だった由美子さんは、もう鈴木家との関係は途絶えているし、甥の拓也さん、姪の静香さんには、縁が遠いので、連絡すら行きませんでした。
葬儀が終わると相続の話が始まります。
明子さんは、もう離婚しているので、相続人にはなりません。進一郎さんだけが四郎さんの相続人ということになります。
しかし、三郎さんが、明子さんに聞いてみると「あの人は、事業に失敗して借金漬けになったはずですから、借金が残っていると思います。ですから、進一郎には相続放棄をさせます」と言います。
三郎さんは、このときまでに相続についての知識は一通り身に付けていましたから、そうなると、今度は兄弟の自分に相続が回ってくることを知っていました。そこで、三郎さんも、進一郎さんが相続放棄の手続きをとったら、すぐに自分も相続放棄の手続きをとることにしました。
三郎さんは、このとき、一郎さんの遺児である拓也さん、静香さんにも相続権が発生するのではないかと思いましたが、母である葉子さんの相続のときに、この2人には煮え湯を飲まされていることから、「まあ、俺から連絡することもないか。2人に任せておけばいい」と思い、それきり、このことは忘れてしまいました。
青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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連載きれいに死ぬための相続の話をしよう~残される家族が困らないために必要な準備