「そんなにあるの!?」目の色を変えて親族は喜び…
それから、弁護士さんは、三郎さんの英樹さんの預金に対する権利についても説明してくれました。
「英樹さんが亡くなったときは、全部の財産を葉子さんに相続させるということで親族間の話し合いがついていたのですから、三郎さんは英樹さんの財産に対する相続分を放棄したことになっています。それを今から蒸し返して、葉子さんの持っている預金の2分の1とか3分の2は自分のものだと言うことはできません」
三郎さんと優子さんは、「あれだけ苦労したのに、たったそれだけか」、「親父が生きている間は、農業の収入は全部親父の収入になり、自分たちは生活費を分けてもらっていただけなのに、親父が亡くなる前の貢献は何も見てくれないんだ。親父が死んだとき、ちゃんと分けてもらっておけばよかった」と落胆しました。
それでも、三郎さん夫婦は、農業を続けていくためには、今の家と農地はすべて相続しなければなりません。それだけは絶対譲れない線です。
ここまで考えて、三郎さんは四十九日の場で家と農地は三郎さんへ、3000万円の預金は寄与分300万円を引いて、残りの2700万円を分割する。その結果、拓也さんと静香さんが450万円ずつ、四郎さんは900万円、三郎さんは900万円の相続分に寄与分300万円を加えて1200万円とするということを提案する方針を立てました。
そして、四十九日の日がやってきました。法要と会食が終わると、親族だけが家に残って、相続の話が始まりました。
一郎さんが亡くなった時に、2人で相続争いを演じた拓也さんと静香さんが、いきなり「私たちも6分の1もらえるんでしょう」と切り出します。そして、「おばあちゃんの財産がいくらあったのか、三郎おじさん教えてください」と聞いてきます。
三郎さんは、正直者ですから、葉子さんの財産をすべて教えました。その金額の大きさに、全員びっくりした様子です。それまで、あまり興味を示さなかった四郎さんまで、身を乗り出してきます。「家と農地は兄さんが相続することで異存はないけど、現金については俺はその3分の1だから1000万円もらえるの?」と。
三郎さんは、自分がお父さんの農業をずっと手伝ってきたこと、その結果できたのが、葉子さんが英樹さんから引き継いだ預金1000万円であること、この家もその農業収入で15年前に建て直したものであることを説明しましたが、拓也さん、静香さんは聞く耳を持ちません。
「そんな古い話は知らないよ。今はおばあちゃんの財産の分け方を話しているんだから、おじいちゃんのことは関係ないよ。それより早く500万円振り込んでくれ」と言います。四郎さんもこれに賛同して、「俺は1000万円だ」などと言って、うれしそうな顔をしています。