本記事では法定相続の理不尽さを見てみましょう。法定相続では、兄弟全員同じ相続分しかもらえません。誰かひとりが親と同居し、介護をしても、余程のことがない限りその世話をした分は相続分に反映されないのです。親孝行をした人はタダ働き、何もしなかった人は笑う相続人となっていきます。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
「おかしい、不公平だ!」自分たちの苦労が…
法律によれば、葉子さんの相続人は一郎さんの子供である拓也さんと静香さん(この2人は一郎さんが亡くなっているので、相続権を持ちます。これを代襲相続と言います)、三郎さん、四郎さんです。由美子さんは二郎さんの奥さんですが、葉子さんとの間に親子関係はないので相続権は基本的にありません【鈴木家の家系図】。
生前、葉子さんの世話をしてきた三郎さんの奥さんの優子さんも、葉子さんとの間に親子関係はないので、相続権はありません。あれだけ英樹さんと葉子さんの世話をした優子さんが、何ももらえないのです。なんという不公平なことでしょう。
拓也さんと静香さんは、一郎さんの相続分を分け合うことになるので、それぞれの法定相続分や、拓也さんと静香さんが6分の1、三郎さんと四郎さんは3分の1です。このままいくと、家も農地も3000万円の預金もすべてこの比率で分割されてしまいます。
さすがに三郎さんは、「おかしい、不公平だ」と思いました。三郎さん夫婦がこれまでずっと葉子さんの世話をしてきたのに、何の見返りもないのです。
それに、お父さんの英樹さんが生きていた間は、農業の収入は全部英樹さんの預金口座に入るようになっており、三郎さんはそこから生活費と小遣いをもらっていただけで、三郎さん、優子さんが農作業を手分けしてやってきた労働の対価は、何ももらっていません。葉子さんが英樹さんから受け継いだ預金の1000万円は、三郎さんと優子さんの労働の成果でもあったのです。
そこで、三郎さんは、地元の弁護士さんに相談に行きました。
こういう場合、自分たちの苦労は報われないのかと聞くと、弁護士さんから、まず葉子さんへの寄与分について説明がありました。
「それは寄与分という制度があるので、生前に被相続人の財産の増加を助けたり、それが減少することを防いだことは、相続のときに考慮されます。優子さんが葉子さんの療養看護に務めた分は、三郎さんの寄与分として認められます。問題は具体的な金額ですが、付添人を頼んだ場合の費用程度の額となります。
葉子さんは、3年間にわたって認知症を患い、その間優子さんが付添人の代わりをしていますから、毎月7~8万円、年額で約100万円の費用がかかるとすれば、3年分の300万円程度が寄与分として認められることになるでしょう」と教えてくれました。
青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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