新型コロナより怖い、老人抹殺社会の現実が忍び寄ってきている。「老人はもう長生きしない。なぜなら、老人を殺してもおかしくない社会になっているからだ」――。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が明かす、驚愕の事実。超高齢化社会ニッポンが抱える問題点を明らかにする。本連載は小嶋勝利著『もはや老人はいらない!』(ビジネス社)から一部を抜粋、編集したものです。

介護現場は無法地帯でトラブルだらけ!

この繰り返しで、老人ホーム市場は拡大してきたのです。現在、国は老人ホームをはじめとする介護事業に拠出する介護保険報酬の削減を検討しているはずです。この理屈を理解しているとすれば、介護保険報酬を削減するには、介護保険事業者を減らすことが一番の早道であると考えるはずです。事業者を減らせば利用者は減る。その結果、介護保険報酬も減るということです。

 

小嶋勝利著『もはや老人はいらない』(ビジネス社)
小嶋勝利著『もはや老人はいらない』(ビジネス社)

さらに事態が深刻なのは、同じようなスキームのサービスがたくさんあることです。居住系サービスには、有料老人ホーム、特養ホーム(特別養護老人ホーム)、老健(介護老人保険施設)、グループホーム、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)などがあります。これらのサービスについて、まったく棲み分けができていません。正確に言うと、国が決めたポリシーのようなものはあるものの、運用では一切無視されているのが現状です。つまり何でもありの無法地帯なのです。

 

わかりやすく一例を挙げます。社会福祉法人が運営している特養ホームは本来、高齢社会のセーフティーネットであるはずです。ですが、民間の老人ホームと無益な競争を行ない、高級路線を走っています。医療法人が運営する老健は本来、病院から自宅へ帰るための一時的な訓練場所であるはずです。ところが何年にもわたって居住し続けている入居者が少なくありません。グループホームは、認知症高齢者が共同生活、つまり入居者同士で掃除をしたり、食事の支度をしたりと日常生活を送る場所であるにもかかわらず、多くのグループホームには、共同生活ができない寝たきりの高齢者が入居しています。

 

入居希望者の立場に立って考えた場合、自分の親は認知症ではあるが、人のサポートがあれば日常生活を送ることができるというのであれば、本来の正しい在り方としてはグループホームへ入居することになります。しかし現実は、各サービスの役割がないため、単に予算と場所だけで選ばれているのが実態です。したがって当然ですが、トラブルも多く、クレームも多いということになります。

 

老人ホームとは似て非なるこのようなものがあるので、老人ホームがこれらの似て非なるものと競合し、結果、過当競争になっているわけです。

 

本来、介護保険事業とは、役割の違う各サービスが自分の役割を正しくまっとうすることで、介護支援が必要な高齢者に対し適切な支援が可能になるはずです。保険者も介護保険事業者も要介護高齢者も皆、WIN、WIN、WINになるスキームであるはずです。私の見ている景色に限っていうなら、各サービスの役割が不明確になり、本来の役割を超えたサービスを提供しなければならないので事業者自身も困惑し、さらに事業者同士の競争も激しくなって単なる消耗戦をしているにすぎません。つまり誰も勝者になっていないスキームが、今の介護保険制度なのです。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

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