「格差の是正か、経済成長か」…二者択一ではない
■政策手段としての税
「税は、財源確保の手段ではなく、物価調整の手段だ」と言いましたが、より正確に言うと、税は、物価調整以外の目的のためにも活用されます。
例えば、炭素税のように、二酸化炭素の排出の抑制の手段ともなります。
また、税は、所得再配分の手段としても重要です。富裕層の所得やぜいたく品の消費には課税をより重くし、貧困層の所得や生活必需品の消費に対しては、非課税あるいは軽い税率とすれば、所得格差が是正されます。
実は、所得格差の是正は、需要を生み出し、デフレの克服に一役買うものです。というのも、高所得者よりも低所得者のほうが、所得に占める消費の割合がより大きいからです。高所得者は所得の2割ほどを貯蓄に回すでしょうが、低所得者は所得のほぼすべてを消費に充てざるを得ません。
ということは、低所得者にお金を回すほうが、消費需要が拡大するというわけです。その意味で、所得格差を是正する「累進所得税」は、国全体で見れば、消費需要を刺激する効果をもつと言えます。
格差の是正は、需要の拡大を通じて、経済成長を促します。「格差の是正か、経済成長か」という二者択一であるかのように言われることがありますが、それは間違いです。格差が拡大したら、需要が減少し、経済成長は阻害されるのです。
2014年、OECD(経済協力開発機構)は、所得格差と経済成長に関する調査を発表しました。その調査の結論は、次の通りです注3。
・日本を含む大半のOECD諸国において、過去30年間、格差が拡大している。
・所得格差の拡大は、経済成長を大幅に抑制している。
・格差が成長に及ぼすマイナスの影響は、貧困層だけではなく、実際には下位40%の所得層においても見られる。
・政府の所得再分配政策は、成長を阻害しない。
注3 https://www.oecd.org/els/soc/Focus-Inequality-and-Growth-JPN-2014.pdf
IMFからも、格差の拡大は成長をむしろ阻害するという研究が出ています注4。「日本は悪平等だから、競争原理が働かず、経済が成長しない」とか、「一部の企業や富裕層が利益を増やせば、その利益は国全体にしたたりおちる(トリクルダウン)」とかいった話は、でたらめだったということです。
注4 https://www.imf.org/external/pubs/ft/sdn/2014/sdn1402.pdf