繊細でバランスもよく…ジャパニーズウイスキーの真価
海外での人気も、ジャパニーズウイスキーの復活に大きく貢献しています。新型コロナウイルスの感染拡大以前、国内の蒸留所には外国人観光客も大勢訪れていました。見学客の2~3割は外国人観光客という蒸留所もあり、多くの蒸留所が、英語やフランス語、中国語、韓国語など多言語案内表示に対応しています。また、オークションでジャパニーズウイスキーを落札しているのも海外の資産家です。
なぜ、ジャパニーズウイスキーが海外でもこれほどウケているのでしょうか。最大の理由は、なんといってもおいしいからでしょう。2001(平成13)年にシングルカスク余市が世界一に、響21年が2位に輝いて以降、ジャパニーズウイスキーは品評会では上位入賞の常連となりつつあります。たとえば、2020年のワールド・ウイスキー・アワード(WWA)は下記の図表1のような結果になっています。
また、2020年に第2回が開催された東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)では、最高金賞全12品に、サントリーの「エッセンス・オブ・サントリーウイスキー 山崎蒸溜所 リフィルシェリーカスク」、本坊酒造の「駒ヶ岳 1991 28年 シングルカスク №160」がランクインしています。
ジャパニーズウイスキーはよく、ほかの国のウイスキーに比べると「繊細でバランスがよい」と評されます。もちろん蒸留所ごと、銘柄ごとに明確な個性があります。それでも、繊細さとバランスのよさは、すべてのジャパニーズウイスキーに通底しているのです。
これが、たとえば、スコットランドのブレンデッドを代表する「ジョニーウォーカー レッド」、通称「ジョニ赤」であれば、ブレンドされている35種類の原酒は、基本的にはそれぞれ別の蒸留所でつくられています。それを、ジョニーウォーカーのブレンダーがブレンドしているのです。
一方、日本のウイスキーメーカーがブレンデッドをつくろうと思ったら、自社のみですべての原酒をつくるほかありません。サントリーのブレンデッドウイスキーにニッカウヰスキーやキリンディスティラリーの原酒が使われることはないからです。実際、各社はモルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方をつくっていますし、サントリーとニッカウヰスキーは複数の蒸留所を所有しています。
一つの蒸留所で何十種類、何百種類の原酒をつくり分け、それらをブレンドするノウハウとスキルを、日本のウイスキーメーカーはずっと磨いてきました。このような日本ならではの事情が、日本のウイスキーに繊細さと調和を付与しているのでしょう。このほか、春夏秋冬という季節のメリハリや、有機物の少ない水も、ジャパニーズウイスキーが「繊細」「調和」というフレーズとともに語られる理由の一つです。
さらに、「メイドインジャパンなら間違いない」「日本製ならハズレはないだろう」という期待も、海外の人がジャパニーズウイスキーに手を伸ばす動機になっていると考えられます。海外ではいまだに日本製への信頼が根強くあります。また、2013(平成25)年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本食は海外でも人気となっています。こうした日本文化への世界的な評価が、ウイスキーにも向けられているのでしょう。
2009(平成21)年から好転したウイスキーの消費量は、2018年(平成30年)には17.5万㎘となり、1983(昭和58)年のピーク時のおよそ2分の1にまで回復しています。また、ジャパニーズウイスキーの輸出額はこの10年で10倍近く増加。国内でも、海外でもジャパニーズウイスキーが飲まれているのは、非常によろこばしいことです。
輸出額はおよそ10倍に!人気ゆえの弊害とは?
ただ、人気の裏で思わぬ弊害も生じています。原酒不足です。長い斜陽の時期を、メーカーは原酒の仕込み量を減らすことでしのいでいました。生産をストップしてしまえば、10年後、20年後に飲むウイスキーがなくなってしまいます。しかし、右肩上がりだった時代と同じ量を生産していては原酒がだぶつきます。メーカーは仕込み量をしぼるしかありませんでした。
ところが、近年、国内外の需要が急激にアップ。これほど劇的な回復劇はメーカー自身も予測できなかったでしょう。今になって原酒のストックが不足しはじめ、熟成年数を表記した年代物が相次いで販売終了し、年代表記のないノンエイジ商品として軒並みリニューアルが行なわれています。
ここ数年、「山崎」や「白州」をはじめ、国産シングルモルトのテレビCMを見かけなくなったように思います。これも、原酒不足の影響を受けているのです。現時点で販売終了、または休売が決定している主な商品をいくつか図表2に挙げてみました。
一部の銘柄の販売終了が発表された折には、ニュース速報が流れました。それだけ世間の関心が集まっています。各メーカーは増産を急いでいますが、今仕込んだ原酒が熟成のピークに達するのは10年以上先。原酒不足が解消されるには、まだまだ長い時間がかかるのです。
土屋 守
ウイスキー文化研究所代表
ウイスキー評論家
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