利用者や入居者のことは誰も考えていない
「必要だから潰さないだけ」。これが行政のさじ加減
介護保険事業者の殺生権は間違いなく国にあります。前にも記しましたが、2000年当初、国は介護保険制度を広げるために多くの民間企業の参入を促しました。介護保険報酬を用意し、多くの企業が簡単に介護保険報酬にありつけるスキームにしたのです。
そして現在、市場は拡大し、それに伴い財政は悪化。結果、事業者の「量」の調整をしています。予算を決めてその予算の中で事業者に報酬を分け与えなければならないのですが、今は、どの事業者にどのくらいの予算を配分するかということに躍起になっているのではないかと私は感じています。もちろん、この行動が利用者や入居者の「ため」になっているのであれば何ら問題はないのですが、そうではないような気がしてなりません。
当初は、予算の配分をケアマネジャーに託していたように思いますが、ケアマネジャーが民間企業の会社員であることをもって、ケアプランの精神よりも企業利益を追求しなければならず骨抜きにされてしまいました。多くの専門家の意見は「ケアマネジャーはだらしがない」ということで整理しているようです。
私が介護職員だった頃は、介護職員の目標はケアマネジャーになることでしたが、今は、「ケアマネジャーになんかなりたくない」という職員が大半です。傍らでケアマネジャーの仕事ぶりを見てきた介護職員の本音です。そのくらいケアマネジャーは、ここ数年で地位が没落しています。その敗因は、介護保険報酬額の調整弁として国の期待に応えることができなかったからだと私は考えています。高齢者の自宅にずかずかと入ることができる立場であったにもかかわらず、自身の業務担当領域を広げることができず、ケアプランを作る以外の仕事に取り組んでこなかったこともケアマネジャーの地位が向上しなかった理由だと思います。
ケアマネジャーの地位が向上せず、介護職員から「気の毒に」と同情されるようになったことは自業自得の側面はありますが、そもそも民間企業で会社員として仕事をすることが苦手な人たちに対し、優秀な会社員としての仕事を求めてきた介護保険制度の運用に矛盾があったのです。
今後、老人ホーム事業に限らず、介護保険事業者数や介護保険報酬額は、介護保険制度の改定を活用し、国が強制的にあるべき姿にしていくことは間違いありません。全体の予算から逆算して、このサービスにはこの程度という予算配分がなされます。その結果、多くの事業者は淘汰されていきます。なお事業者が想定より少なくなれば、また新規企業の参入促進を介護保険制度の改定で行なっていき、その繰り返しで高齢者介護業界は右往左往して漂流していきます。
残念なことに、利用者や入居者の「こと」など誰も考えてはいません。問題は高齢者先進国として、外面だけ高齢者に寄り添っているように見える制度があるだけで、それ以上でもそれ以下でもないということだと思います。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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