本記事では筑波こどものこころクリニック院長/小児科医の鈴木直光氏の書籍『新訂版 発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、「こころの問題」についてひも解いていきます。

子どもの将来が見えずに困っている親たち

クリニックに来る親御さんに、私は決まって次のようなことを述べます。

 

「この子が就職し、自立して将来一人で生きていけるようになる。それが目標です」

 

この言葉を聞いた親御さんは、誰もが同じようにうなずき、そして驚いた顔をします。子どもの将来について話してくれた人は初めてだというのです。中には、自分の不安な気持ちを理解してくれる人に出会えたと感動して涙を流す方もいます。

 

発達障がいが原因で、教師や友人などと衝突をしてうまく関わりが持てなかったり、引きこもって社会との接触を閉ざしたりしたわが子の様子を見るにつけ、「この子の将来は大丈夫なのか」「自分が死んだらこの子はどうなるんだろうか」「一人で食べていけるのだろうか」などという思いが湧きあがり、夜も眠れないという親御さんの声をよく聞きます。

 

悩む親は多い(※写真はイメージです/PIXTA)
悩む親は多い(※写真はイメージです/PIXTA)

 

確かに、発達障がいを抱えている人たちの中には、就職や会社での生活がなかなかうまくいかずに悩んでいる人もいます。私もクリニックで青年たちが「仕事をするのが怖い」「社内の人間関係がうまくいかない」と言っている姿を何度も見てきました。

 

うまくいかないのには原因があります。それは就職するにも、会社で生き残っていくためにも、発達障がいのある人たちの多くが苦手としている、コミュニケーション能力が必要となるからです。

 

2012年に経団連が発表した「新卒採用に関するアンケート調査結果」によると、採用選考時に企業がもっとも重視したものが、コミュニケーション能力でした。また、離職の理由に、職場の人間関係を挙げる人も多くいます。

「空気を読めなくて困ったことがある?」への答えは…

発達障がいのある人たちは「思い込みで喋(しやべ)ってしまう」「自分中心に話をしてしまいがちで空気を読むのが苦手」「些細なことで引っかかってしまう」という会話の傾向があります。

 

例えば「空気を読めなくて困ったことがある?」と私のクリニックでこのような質問をした時、「空気なんか読めませんよ。空気は吸うものですよ」と真顔で反論してきたお子さんがいました。発想の素晴らしさに感心させられましたが、実際の友達との会話では苦労することがうかがえました。

 

名前も正確に呼ばなければ、相手が初対面の医師であろうと訂正します。例えば本名が、私と同じ「すずきなおみつ」だったとします。私は、「なおちゃん」と呼ばれても気にしません。むしろ親しく呼んでくれたことに、喜びすら感じることもあるでしょう。

 

しかし、発達障がいを抱えた方の中には、「なおちゃん」と気安く呼ぶと、私の名前は「すずきなおみつ」ですよ、「なおちゃん」ではありません、と答える方もいます。「なおみつ君」と「君」をつけても、「なおみつ」と名前の方だけ呼び捨てにしても、いけない場合もあります。

 

決して悪気はないのですが、このような会話によって周囲から誤解されたり、煙たがられたりする危険性が高いのです。周囲から人が離れていくと、コミュニケーションをとる機会が他のお子さんと比べて少なくなります。

 

他人と会話をする機会が減るので、コミュニケーション能力も身につきません。うまく自分の意志や思いを伝えられなくなるために、他人と会話することに苦手意識を持つようになり、さらに孤立していく……。というような負のスパイラルに陥りやすいのです。

 

鈴木 直光

 

筑波こどものこころクリニック院長・小児科医

小児神経学会認定医博士(医学)

 

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    鈴木 直光

    幻冬舎メディアコンサルティング

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