英国「EU離脱」…強硬姿勢崩さずも、タイムリミットは残り2日

英国ジョンソン首相が提出した「国内市場法案」をめぐり紛糾極まる欧州経済。EU離脱の移行措置期間が2020年12月31日に終了する手前、一刻も早い協議成立が求められているはずだが、英国とEU、どちらも強気の姿勢を崩さない。このまま「合意なき離脱」の恐ろしい道を進むのか。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO・長谷川建一氏の見解はこうだ。

英国のEU離脱迫るも…国内市場法案めぐり欧州紛糾

■EUからの離脱日は目前、交渉は継続

 

今週15~16日には、欧州連合(EU)首脳会議がブリュッセルで開催される。会議の焦点は、もちろん、EUからの離脱を目前に控えた英国との自由貿易協定(FTA)が成立するかどうかである。

 

FTAの交渉は今年3月から続いているが、いまだに争点が多く残り、双方の主張の溝は埋まっていない。一方で、英国がEUから離脱する移行措置期間は、2020年12月31日に終了する。手続きの完了に時間を要することを考えれば、もう残された時間は限りなく少ない。ジョンソン首相も協議の期限を10月15日と公言してきた。

 

ところが、ジョンソン政権は9月に、EUと締結した離脱協定の内容に反する「国内市場法案」を英国議会に提出し、EUとの間の協議に波紋を広げた。この法案は、北アイルランドと英国本土との貿易に関する税関手続きを免除する規定や、「合意なき」離脱となった場合に北アイルランドに輸入される物品が関税対象かどうかを判断する権限が英国の政務担当者にあるとの規定を含んでいる。これらの手続き規定は、EUと英国との間で締結された離脱協定の基本内容と相反すると考えられる神経質な内容だ。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ただ、英国からすれば、EU側との協議が物別れに終わり、問題が解決されずに、合意なき離脱となる場合に備えておくためには、背に腹は変えられないという部分はあるのだろう。

 

欧州委員会は、同法案の提出に対して、英国政府の行動が「離脱合意の条件に反する国際法に違反し、EUと英国間の離脱交渉を脅かす」と強く非難する声明を発表した。フォン・デア・ライエン欧州委員長も、ジョンソン首相が提出したことを「非常に不愉快な不意打ち」だとして腹立たしさを隠さなかった。

 

10月1日には「国内市場法案」は本質的に離脱協定に含まれる「信頼の義務に違反する」として、欧州委員会が英国政府に正式な告知書を送ることを決定し、フォン・デア・ライエン委員長は英国に1ヵ月以内に回答を寄越すよう求めた。告知書送付はEUの司法裁判所での訴訟提起につながる法的プロセスでもあり、法的措置も辞さない強硬な姿勢でもある。

鍵握るのはマクロン仏大統領…「ミニ合意」の可能性も

その後、FTA協議は10月5日から再開されたが、漁業権で互いに譲らないことと国家補助をめぐって折り合いがつかず、目立った進展がないという。そんななか11日には、まずメルケル独首相とマクロン仏大統領が電話会談し、その後、メルケル首相とジョンソン首相が事態を打開するためにこちらも電話会議で話し合った。トップレベルが協議の場を設けたことは、膠着状態に陥っているFTA交渉が前進することへの期待を高める。

 

3人のなかでは、マクロン大統領が最も強硬な姿勢をとっているようである。厳格な執行ルールを求めているほか、漁業権に関して譲歩しないと伝えられており、EU側が軟化するかどうかはマクロン大統領次第とも噂されている。

 

ジョンソン首相は、合意への歩み寄りが見られない場合、15日を期限に通商交渉から手を引くと警告している。相変わらず強気の交渉姿勢を貫く構えである。一方のEU側は、ジョンソン政権が離脱協定を骨抜きにしようとするなど信用ならない相手への猜疑心を強くしており、譲歩や妥協してまで合意が成立するかは非常に不透明になっている。

 

双方の交渉担当者は「通商合意なき離脱」に伴う最も著しい混乱を避けるために、包括的なFTAではなく、暫定的な「ミニ合意」を目指して協議を継続する準備をしているようである。

 

これは、包括的で広範な合意が不可能な場合に、双方の交渉を担うチームが、離脱移行期間が終了する際に発生するであろう混乱を回避するために、航空・道路輸送や通関手続きなど特定の分野で部分合意することを目指すということのようである。

 

現実に、モノは動き、手続きは済ませなければならないのだから、ルールなしではいられない。そのような準備をしなければならないほど、EUと英国の協議は最終局面に追い込まれているともいえよう。欧州離脱の日はもう目前であるわけだから、当たり前のことではあるが。

「国内市場法案」によって英ポンド急落…今後の展開は

為替市場では、英ポンドの動きは今年8月は1ポンド=1.34ドル台まで上昇する局面もあったが、「国内市場法案」審議開始後は、急落して1.27ドルを下回る水準まで一旦売り込まれた。しかし10月以降は、1.3ドル近辺まで値を戻して底堅く推移している。

 

2016年の国民投票以来、「合意なき離脱」への懸念に揺れ続けてきたため、慣れてしまったという側面もあるのだろうが、合意形成への期待は残っている。ただ、先送りや形だけの合意などでは、本質的な解決が見えない以上、ポンドの自律反発以上の回復は望むべくもないだろう。

 

英ポンドは対米ドルでは、1ポンド=1.3ドル近辺を中心としたレンジ(1.26-1.32ドル)での展開を想定する。対ユーロでは、1ユーロ=0.88-0.92ポンド。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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