弁護士法人みずほ中央法律事務所・司法書士法人みずほ中央事務所の代表弁護士である三平聡史氏は『ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表』(日本加除出版)のなかで、富裕層の離婚問題について様々な事例を取り上げ、解決策を提示しています。

父の宿泊業を継いだ…熟年離婚で「財産どう分ける?」

【今回の事例】

男性(夫)と女性(妻)は婚姻し、2人の子をもうけました。婚姻前、夫の父Aが宿泊業を営んでいて、夫はそれを手伝っていました。婚姻を機に、宿泊業を夫が承継することとなりました。具体的には、宿泊業の運営を法人化し、夫が代表取締役となりました。Aも会長として取引先との付き合いには関わることとしました。


株式は9割を夫、1割をAが持ちました。妻はパートタイムで経理などの事務を行っていました。


法人化してから2年後に、会社として土地を購入し、旅館としての建物を新築しました。この際、不動産への担保権設定はありませんでした。また、会社にはまとまった金額(資産)はありませんでした。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)


その後、子(長男)Bが成人し、館長として就労するようになりました。このとき、夫(父)からBに、2割の株式を譲渡しました。妻・長男は会社から給与を得ていました。夫の役員報酬については、経理上は月額50万円でしたが、そのうちの大部分の支給は実際には行わず、貸付金として扱っていました。


その後、夫婦の仲が悪くなり、離婚する方向で協議が進みましたが、財産分与に関して見解が対立しました。会社の資産は主に不動産であり、1億3000万円の評価額でした。会社から夫への役員報酬は、5500万円が未払いという扱いになっていました。

 

 

<争点(見解の違い)>

夫:会社名義の財産は家計とはまったく別のものである。実際には、会社名義の財産には実家(夫の父)の資金も多く含まれている。会社名義の財産も株式も分与対象とはならない。

妻:会社名義の不動産や預貯金も実質的な夫婦共有財産(分与対象財産)である。そうでないとしても夫の保有する株式が分与対象になる。

 

<結論>調停成立

離婚する。会社の保有財産と夫の保有する株式は分与対象とはしない。会社から夫への役員報酬の未払分を分与対象財産とする。夫が妻に解決金として4400万円を支払う。

次ページ夫の株式が分与対象にならなかった!そのワケは…

本連載に掲載しているケースは、解決に至った事例を基にして、その一部を変更し、また複数の事例を組み合わせてまとめたものです。もちろん、同種案件の処理において参考となるよう、本質的な判断のエッセンスは残してあります。一方で、判断プロセスや解決結果にはほとんど影響を及ぼさない事情については記載を省略しています。なお、ケースの背景事情等については、あくまで架空の設定であることをおことわりしておきます。

ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表

ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表

三平 聡史

日本加除出版

高額所得者の場合の財産分与、婚姻費用・養育費算定はどうなる? 標準算定表の上限年収を超えたときの算定方法は? 54の具体的ケースや裁判例、オリジナル「高額算定表」で解説! ●不動産や会社支配権、その他高額資産を…

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