医療者にとって重要な「交渉心理学」
なかなか自身の考え通りに患者が治療に応じてくれないという経験は、医療者なら誰しもご経験のことかと思います。
こういった際にうまく選択肢を提示することが重要です。
2cm大の肝細胞癌が発見された患者。ラジオ波焼灼療法の適応と考え、説明しますが患者が納得しません。あなたはどのように説得しますか。
ケース1の場合ですと、1.大きな手術、2.ラジオ波焼灼療法、3.緩和医療と提示しますと、真ん中のラジオ波焼灼療法を選択するというものです。医療者はより多くの選択肢を与えることが美徳だと考えがちですが、患者が実際に行った選択に満足しているかは別です。
交渉学では、このように大中小で中を選ぶ、松竹梅で竹を選ぶことを極端の回避性あるいは松竹梅効果と呼びます。あるお寿司屋で上にぎりが全く売れないので、特上にぎりを作ったら、上にぎりが売れるようになったという話は有名です。
近鉄奈良駅近くにあるワインバーにワインを飲みにいくと、マスターが、100万円、1万円、3000円の3つのうちどれにしますかと提案してきます。だいたいマスターの本音としては真ん中の1万円のワインを飲ませたいのです。松竹梅効果を知っていながら、私も1万円のワインをつい頼んでしまいます。
日々皆様も多くの選択肢の中から選択という作業を行っています。それでは選択肢が多い方が良い選択ができるのでしょうか?
買い物に行くとき、マンションの部屋を借りる時など、品揃えが豊富とか、多くのマンションを管理している不動産屋さんとか、より多くの選択肢がある方が幸せと信じています。
マンションの部屋、コンピューター購入、結婚相手など、選択肢が多すぎて不幸になるケースがあります。100台も200台もあるコンピューターから1台を選んで買うと、帰宅後にもっと良い機種があったのではと不安になります。しかし、店員は3種類ぐらいの機種を紹介してくれます。20万円、10万円、8万円といった感じです。3つの中なら機能やデザインを比較し、10万円のものを買って帰るとなんとなく良い選択をしたような気がして満足な買い物をしたと考えるといった経験は皆様もお持ちかと思います。
選択に関しては、NHKコロンビア白熱教室でも講義されていた、コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授の『選択の科学』を読んで頂ければさらに興味が深まります。
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