医療事故がマスコミで大きく報道されるようになり、現在の医療現場は「できることはすべてやった」と言い訳をするための、過剰な防衛医療となってしまっています。今回の記事では、加熱する「医療安全」信仰の恐ろしさについて解説していきます。
治癒したにもかかわらず交通事故で死亡…医療の限界
◆ジレンマに苦悩する医師
臨床現場にいる医師は日々目の前にやってくる患者の診療に専念しています。自身の成長を実感できている期間は、自身のためと思って踏ん張れる時期があっても、自身の成長がプラトーになると日々の業務はルーチン化します。
しかし臨床現場に終わりはなく、いつまで頑張っても世の中から病気は容易には撲滅できませんし、救急外来にも次々と患者がやってきます。さらにどんなに努力しても、学会で最新の医学を勉強して実行したとしても、人間が永遠に生き続けられるわけではありません。
副作用の強い肝炎の治療を一生懸命行って治癒したにもかかわらず突然交通事故で死亡したり、高血圧の治療をいろいろな降圧剤で工夫して治療していたのに進行した膵癌で発見後3か月目に死亡するなど、医療の限界や不確実性に直面します。
私は京都にある堀場製作所の元会長の故堀場雅夫氏を尊敬しており、以前直筆サイン入りの玉書を賜った経験もあります。京都府立医科大学関連病院協議会で堀場雅夫氏の講演を拝聴した際に、堀場雅夫氏は社員に好きなことをやらせておけば何時間でも続けて働き、どんどん成果が上がると話しておられました。「おもしろおかしく」を社訓とした経緯なども拝聴し、当時大変感銘を受けた記憶があります。
結論的には究極の医師マネジメントは「おもしろおかしく医師の好きなようにやらせる」ということですが、医療という業界のさまざまな制約や、管理者のマネジメント能力の不足から困難な道のりと思われがちです。
愛知医科大学
内科学講座肝胆膵内科学准教授
愛知医科大学内科学講座肝胆膵内科学准教授(特任)。一般社団法人日本医療戦略研究センター(J-SMARC)代表理事。医師、博士(医学)、MBA(医療経営学修士)。
1970年大阪府生まれ。1995年京都府立医科大学卒業、2002年京都府立医科大学大学院で博士号(医学)を取得。市立奈良病院消化器科部長、京都府庁知事局知事直轄組織給与厚生課健康管理医(総括)、京都府立医科大大学院医学研究科消化器内科学講師を経て2016年10月から現職。2015年英国国立ウェールズ大学経営大学院でMBA in Healthcare Management(医療経営学修士号)を取得。立命館大学医療経営研究センター客員研究員を兼任。日本肝臓学会評議員・指導医。日本消化器病学会評議員・指導医。日本医療経営実践協会医療経営士3級。
著書に『最新・C型肝炎経口薬治療マニュアル』(2016年4月、編集および共著)『症例に学ぶNASH/NAFLDの診断と治療|臨床で役立つ症例32』(2012年4月、編集および共著)、『最新!C型肝炎治療薬の使いかた』(2012年10月、編集および共著)、『見て読んでわかるNASH/NAFLD診療かかりつけ医と内科医のために』(2014年8月、編集および共著)
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