解説:遺産が少ないほど、相続争いは発生しやすい
いわゆる争族は、遺産が少額ほど発生しやすいと言われています。
家庭裁判所にもちこまれた遺産分割紛争のうち調停が成立した事案を見ると5,000万円以下が約76%を占めます(司法統計より)。
もめやすい理由としては、自宅などの不動産が遺産の大部分を占め、分けづらい遺産構成であることがあげられますが、本事例もその典型です。
上記の調停成立事案のうち遺産分割をまとめる手段として代償金(注)を支払うこととしたケースは約70%に達しますが、本事例においても、もしAさんに資力があれば、たとえば自宅はAさん、預貯金は長女・二女が相続した上で代償金をAさんから長女・二女に支払う、という方法が解決策の一つになります。
また、争族を招く大きな要因の一つは遺言書の不存在です。
遺言書を残す人の割合は1割程度と言われていますが、上記の統計を見る限り、遺産が少ないほど遺言書の存在がより不可欠であると言えそうです。
本事例においては、たとえば父が生前に、「自宅はAさん、預貯金は長女、二女に相続させて、Aさんから長女・二女に代償金を支払う」という内容の遺言書を作成し、さらに可能であれば代償金の支払原資として、上記遺産とは別に死亡保険金受取人をAさんとする保険に加入しておく等の備えがあれば、少なくともAさんが身銭を切ることなく、父の遺産の中から争いのない相続をすることができたかもしれません。
(注)代償金
遺産の取得割合が多い相続人の固有財産である現預金などを取得割合が少ない相続人へ渡すことにより取得割合を調整する解決金のようなもの
■長女・二女の遺留分…それぞれ750万円
(自宅5,000万円+預貯金1,000万円)×1/4×1/2=750万円※
※死亡保険金は遺産分割の対象にならないので不算入
争族は、ひとたび起きてしまうと当事者間の話し合いで折り合いをつけることは極めて困難です。相続の仕方による相続税への影響など切り離して考えることのできない課題もありますので、税理士をはじめ相続の専門家の知恵を借りながら全員が納得する落としどころを模索していくことが必要になります。
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