
仲の良い家族でも、お金が絡むと人は変わるもの。相続にまつわる争いは絶えません。そのようなトラブルを他人事と思わずに、事例から相続対策を学ぶことが重要です。今回は、編集部に届いた医療費にまつわるトラブルについて、相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の戸﨑貴之税理士が解説します。
未婚の長男と、既婚の長女・次男…きょうだい間に溝
母……夫は40年前に死別
長男…未婚
長女…既婚
次男…既婚
長男、長女、次女の3人の子どもがいるMさん(=母)家族。まだ子どもが小学生のころに夫を病気で亡くし、以来、女手ひとつで子どもを育てあげました。
家計はいつも火の車でした。それでもMさんは自分の食事を削ってでも、子どもたちにはひもじい思いをさせませんでした。また何としても3人の子どもたちを大学まで通わせようと頑張りました。
「片親だからを、言い訳にしたくなくて」とMさん。そんな母の思いに応えて、3人の子どもたちは現役で大学に合格。家計を支えながら4年で卒業することができました。
子どもたちの大学卒業で肩の荷が降りたMさんでしたが、心配事がひとつありました。長女と次男は20代のころに結婚し、それぞれ家庭を築いていましたが、長男には結婚の「け」の字も見えてきません。
長男は母が心配していることはよくわかっていましたが、母の苦労を誰よりも近くで見ていたからでしょうか、「母さんを1人にしたくない」と、結婚には後ろ向きでした。
そんな長男に対して、長女や次男は「結婚したほうがお母さんが安心する」「いいかげん、親離れをしろ」と、ときにはケンカになることもあったとか。母を気遣っての争いだけに、Mさんも強く言えませんでした。
「私はあなたたちに遺してあげられるものは何もないから。せめて、きょうだい3人、仲良くね」
結婚している長女、次男と、結婚していない長男。その間に溝が生じていることを、Mさんは、感じ取っていました。しかしきょうだいとはいえ、立場が違えば、考え方も違うもの。
「3人とも、もう大人なのだから、仕方がないわね」
そんなとき、Mさんは病に倒れ、入院することになります。
