本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

10月のトピック

最近の自殺者増など懸念材料があるものの、連続ドラマ「わたナギ」のヒットや開幕投手12連勝の菅野が牽引する独走・巨人など景気面からみると明るいデータも。景気は、低水準ながら方向的に5月を底に持ち直しに。

7~9月期は鉱工業生産指数や実質GDPは、大幅悪化した4~6月期の反動もあり大幅な増加に

20年4~6月期実質GDP成長率・第2次速報値は前期比年率▲28.1%で、現行統計(平成23年基準)で遡れる80年4~6月期以降で最大の減少率になった。主要項目では、実質個人消費が前期比▲7.9%、実質設備投資が同▲4.7%、実質輸出が同▲18.5%と大きく減少した。新型コロナウイルス感染症の影響で経済活動が停滞したことを示す数字と言える。

 

しかし、最近発表された経済統計からは7~9月期に経済は持ち直したことがわかる。鉱工業生産指数の前月比は7月分+8.7%と大幅上昇、8月分は同+1.7%になった。製造工業生産予測指数や、経済産業省の先行き試算値などを使って、先行きを予測することが出来る。先行きの鉱工業生産指数、9月分を先行き試算値最頻値前月比(+2.8%)で延長すると、7~9月期の前期比は+8.8%の上昇になる。また9月分を製造工業予測指数前月比(+5.7%)で延長したケースでは、7~9月期の前期比は+9.9%の上昇になる。順調にいくと7~9月期は2四半期ぶりに前期比上昇になり、かなりの持ち直しが期待される状況だ(図表1)。

 

 

 

実質GDPは大幅なマイナスになった4~6月期の反動から7~9月期は、水準は低いものの、伸び率は大幅プラスが予想される。ちなみにオールジャパンのエコノミストのコンセンサス調査である9月のESPフォーキャスト調査では、7~9月期の実質GDP前期比年率+14.1%が予測平均値だ。現行統計で遡れる80年4~6月期以降では、実質GDPが前期比年率2ケタの増加になったのは、87年10~12月期+11.2%、89年10~12月期+12.0%、90年4~6月期+11.0%、11年7~9月期+10.3%の4回だけで、ESPフォーキャスト調査の予測平均値が実現すれば、過去最高を更新することになる。

新型コロナウイルス関連・現状判断DIは4月を底に8月調査まで持ち直し。全体DIと同様な動き

景気に敏感な立場にいる人々の意見を毎月25日から月末にかけて聞く「景気ウォッチャー調査」は4月に各判断DIが統計開始以来の最低を記録した。現状判断DIは7.9だった。その後、5月15.5、6月38.8、7月41.1、8月43.9と、全員が「変わらない」と答えた場合の50を下回っているものの、持ち直しの動きがみられる。また、2~3ヵ月先の景気の先行きに関する先行き判断DIは4月の16.6から6月では44.0まで戻していたが、新型コロナウイルス感染者の増加から先行き懸念が台頭した7月に36.0に一時低下したが、8月に42.4に戻した(図表2)。

 

 

新型コロナウイルスに関するコメントをした景気ウォッチャーの回答だけを使い、新型コロナウイルス関連・現状判断DIと、先行き判断DIを独自に作成すると、新型コロナウイルス関連・現状判断DIは4月には8.7と3月の12.0から1ケタに下落したが、5月13.1、6月35.0、7月38.6、8月39.4に戻っている。一方、新型コロナウイルス関連・先行き判断DIは、いち早く底打ち感が出ていた。3月の16.3を底に6月は43.6へ上昇したあと、7月は32.7に低下したが、8月には41.0に戻した。全体のDIを下回るがほぼ同様な動きである。

 

8月に新型コロナウイルスに関してコメントした人は、現状584人、先行き870人と、最多だった3月の現状998名、先行き1,086名に比べればかなり少ない人数だ。3密を避けるなどの新型コロナ対策という制約の中、緩やかな景気拡張局面が続いていくことが出来るか注目される。

大企業・製造業・業況判断DIは▲27と前回から7ポイント改善するも、設備投資計画は下方修正

9月調査日銀短観では、大企業・製造業・業況判断DIが▲27と前回6月調査の▲34から7ポイント改善した。前回調査から改善したのは、17年12月調査で3ポイント改善して+25になって以来11期ぶりだ。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で経済活動が大幅に停滞し、景況感が急速に悪化した6月調査からは幾分持ち直した。大企業・製造業の12月時点の「先行き」業況判断DIは▲17と「最近」の▲27から10ポイントの改善が見込まれている。

 

但し、厳しい景気状況を示唆する数字も見られた。売上高や経常利益の20年度の計画の前年同期比をみると、修正率がマイナス傾向で依然厳しい状況が継続している。9月調査の20年度大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+1.4%と6月調査の+3.2%から下方修正になった。一方、20年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲16.1%と6月調査の▲16.5%から上方修正された。中小企業は調査の度に上方されるという傾向は維持されたが、改善幅は小幅だった。20年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は▲2.7%と6月調査の▲0.8%から下方修正となった。先行きの新型コロナウイルスの影響が読めない企業が設備投資に慎重になっている(図表3)。

 

 

8月分自殺者数は前年比+18.7%と大幅な伸び率に、8月分完全失業率は3.0%と3%台に上昇

新型コロナの影響で企業の資金需要は拡大とそれに対する政策的対応から、8月分の貸出(銀行・信金計)は前年同月比+6.7%と3月分の+2.0%から伸びている。また8月分マネーストック・M2は前年同月比+8.6%で、3月分の+3.3%から大きく伸びている。こちらには、国民一人当たり10万円の特別定額給付金の影響も加わっている可能性があろう。

 

1~8月分の刑法犯総数は前年同月比▲17.5%、8月分は同▲17.1%と減少している。これは良いデータだが、同じ警察庁発表のデータで心配なのは、自殺者数だ。新型コロナウイルスによるストレスが高まっていよう。19年8月分から20年6月分までは自殺者数の前年同月比は減少で推移してきたが、7月分で増加に転じた。7月分は1,818人、前年同月比+1.4%で、当初の同+0.1%から増加方向に改定され、8月分は1,854人、前年比+18.7%と大幅な伸び率になってしまった。新型コロナの影響が遂に顕在化してしまった可能性もある。最近、有名な芸能人の自殺が相次いでいることから、マスメディアの自殺報道に影響され自殺が増えるという「ウェルテル効果」が懸念される。但し、年初から8月分までの累計は13,169人、前年比▲5.0%である(図表4)。11年ぶりの増加になるかどうか予断を許さない状況である。

 

 

経済的理由などでの自殺者と関連が深い完全失業率は5月分で2.9%(2.88%)、直近ボトムの19年12月の2.2%(2.19%)から5ヵ月連続して上昇した。6月分は2.8%(2.83%)と一旦鈍化したが、7月分で2.9%(2.86%)、8月分で3.0%(2.98%)と再び上昇した。17年5月(3.1%)以来の3%台になった。

新型コロナウイルスの感染拡大の、地価やインフルエンザ発生数への影響

新型コロナウイルスの感染拡大が回復基調にあった地価に冷や水を浴びせた。新型コロナの影響を織り込んだ最初の大規模な地価調査である、今年の基準地価(7月1日時点)は、全国・全用途平均で前年比▲0.6%と3年ぶりの下落となった(図表5)。訪日客需要が消失し繁華街や有名観光地の地価を押し上げた。三大都市圏の商業地は昨年の+5.2%上昇が+0.7%の上昇に鈍化した。都心商業地が減速した。コロナ禍で在宅勤務が急速に広がり、郊外や地方で働く人も増えたが、まだ住宅地の地価を押し上げる勢いはみられない。逆に都心で働く人が減りオフィスの需給が緩んだ面があり、地価の押し下げ要因になっている面もあるようだ。

 

 

今シーズン8月31日から9月20日までの「学校等におけるインフルエンザ様疾患発生状況」は僅か5人で前年比▲99.9%。前年同期の3,906人を大幅に下回っている。冬季の新型コロナウイルスとインフルエンザの同時発生を懸念する向きが多いが、マスク、手洗い、うがいや3密を避けるといった新型コロナ対策の効果がインフルエンザの予防に役立っている面が大きそうだ。

8月分景気動向指数一致CIは3ヵ月連続前月差上昇の予測。景気判断は「下げ止まりに」上方修正

7月分景気動向指数で、一致CIは前月差+3.9と6月分の同+3.2に続き2ヵ月連続の上昇、8月分も上昇が予測される。景気の動きを量的に示す一致CIは、新型コロナウイルスの影響がなかった1月分の94.5に比べるとまだかなり低い水準にあるものの、5月分の71.2を底に7月分では78.3まで戻した(図表6)。景気局面は方向性で決まるので、上昇傾向が継続するかが今後の景気をみる上でのポイントになる。

 

 

景気動向指数一致CI指数による機械的判断は、19年8月から20年7月まで、12か月連続して景気後退の可能性が高いことを意味する「悪化」となっているが、20年8月には「下げ止まり」に上方修正されよう。

 

9月のESPフォーキャスト調査によると、18年10月の景気の山の、次の谷はもう過ぎたかを聞いた質問では、回答した34名中、過ぎたと思う人は33名。そのうち20年5月を谷とする人が31名だ。また、東京オリンピックが開催される予定の21年7~9月まで、総合景気判断DIは80台という高水準での推移となっている。回答したエコノミストのほとんどが景気の上昇を見込んでいることを意味する。

 

現在が景気拡張局面だと仮定して景気のリスク(複数回答、3つまで)を聞いた質問では、半年から1年後にかけて景気上昇を抑える(あるいは景気を反転させる)可能性がある要因は「新型コロナウイルスの感染状況」が最も多くほとんどの人が指摘しました。「米国景気の悪化」「中国景気の悪化」がそれに続き、各々概ね4割程度の人が回答した。

大相撲秋場所の懸賞本数は1,152本、前年比▲42.1%だが、七月場所比は+15.2%の増加

身近なデータも景気拡張局面入りを示唆している。JRA(中央競馬会)の今年の売得金・年初からの累計金額の前年比は2月29日から無観客レースとなり、ネット(ごく一部が電話)でしか馬券が購入できなくなったため、5月3日の週までの累計で▲6.2%まで悪化した。しかし、そこから改善し、9月25日までの週の累計では前年比+1.4%と増加になっている。8週連続で累計前年比プラスとなった。

 

7~9月期の連続ドラマでは全話視聴率20%超、最終回に令和になっての最高視聴率32.7%を達成した「半沢直樹」に注目が集まったが、ハートフルなラブコメディーのドラマである「私の家政夫ナギサさん」も結果を出した。初回は14.2%だったが、回を重ねるごとに数字が上昇し、最終話は19.6%になった(図表7)。全話平均視聴率は15.1%で16年10~12月期の「逃げるは恥だが役に立つ」の14.6%を超えた。98年の金融危機時にブレークした「ショムニ」のような強い女性が主人公のドラマが流行るときは景気後退局面であることが多いが、心温まるラブストーリーが流行るときは景気拡張局面であることが多い。

 

 

「倍返し」のセリフが有名の「半沢直樹」だが、今回のシリーズでは「恩返し」も話題になった。2016年の地震、今年の豪雨と災害に見舞われた故郷熊本への恩返しを胸に、大相撲秋場所で初優勝したのは関脇の正代だった。場所後、熊本県出身の初の大関に昇進した。両横綱が初日から休場した秋場所の懸賞本数は1,152本、前年比▲42.1%と前年に比べると厳しい数字であったが、同じ両国国技館で開催された七月場所の1,000本からは増加した(図表8)。

 

 

菅野投手の開幕から12連勝で首位独走の巨人は、景気面でも明るい材料

巨人菅野智之投手が、開幕投手からの連勝を12に伸ばした。巨人では38年春のスタルヒンの11連勝を82年ぶりに更新した。プロ野球全体では、2004年に岩隈(当時近鉄)がマークしたプロ野球記録に並んだ(図表9)。ちなみに04年は景気拡張局面だった。今年のペナントレースは最も人気のある巨人に9月15日マジック38が点灯、その後マジックは順調に減り10月1日現在でマジック21になった。貯金のかなりの部分は菅野投手の貢献によるものだ。

 

 

プレーオフがあるパリーグは10月1日現在、人気1位のソフトバンクが首位で人気5位のロッテが2位だ。仮にこのままの順位でいくと日本シリーズの対戦カードは景気が拡張局面にある可能性が大きいことを示唆する。優勝チーム同士の対戦が人気1位チーム同士の対戦なら対戦チームの人気ランキング合計は2になる。ランキング合計2~5のケースは景気拡張局面になる確率は85%と高水準だ。また、ロッテが2位から日本シリーズに出場すれば、「下克上のチームが出ると拡張局面である」というジンクスが当てはまる。どちらのケースも景気面から好ましい組み合わせになる。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『視聴率19.6%…ドラマ「わたナギ」のヒットが示す、景気の今』を参照)。

 

(2020年10月2日)

 

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト
 

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