「社長の教祖」と異名を持つ一倉定氏は経営者をよく叱った。叱られるたびに多くの経営者は目を輝かせた。社長の教祖は「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言したという。なぜ、令和の時代に「一倉定」が注目されるのか。本連載は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)からの抜粋です。

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名刺を営業本部長に変えて販売店訪問

ただ社長が本気になれば何でもできる。前出の有名社長は、名刺を営業本部長に変え全国の販売店を1人で訪問し、店頭の声にひたすら耳を傾け販売戦略を再構築していた。社長だと直接言いづらい話も、営業本部長には直球が飛んでくる。だからいいのである。

 

東京観光で有名な「はとバス」の苦境を見事V字回復させた宮端清次社長は、日曜ごとに自腹を切ってバスに乗り込み、お客様と一緒に観光地やレストランを巡る中で口々に出てくる不満の声を集め、一つひとつ解決し人気を戻した。

 

宮端社長が社長を退任された後、私はいろいろ教わった。たとえば、「同じバスに家内と乗っていると、誰も社長とは知らないので、お茶がまずい、ご飯が冷たい、あれはダメだ、これはダメだと宿題を山のようにいただいた」と。

 

そして社に戻り、「会議で問題点をただすと、やれコストが上がる、時間が読めない、それは業者の問題でウチには関係ない、とやれない意見ばかりで一向に改善が進まない」。そのうち「うちのバスに社長が乗っているらしい」という噂が流れ、あるとき、東京駅に帰着すると、幹部2人が出迎えに待っていた。

 

さすがに頭にきて「そんな時間があったら自分で乗れ! どっち向いて仕事してるんだ!」と声を荒らげたという。

 

一倉先生の指摘通り、社長自らが本気で動き、正しい姿勢を貫けば会社は変わっていく。「少なくとも3年間は聴き続けなさい」「そしてすぐ実行しなさい」と指導している真意がここにある。一つひとつは小さなことであるが積み重なれば大きな差となって、お客様に支持され、利益に跳ね返ってくるのである。

 

作間 信司
日本経営合理化協会 専務理事

 

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一倉定の社長学

一倉定の社長学

作間 信司

プレジデント社

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