混迷を極めるいまの時代、勝ち残るには様々な能力が必要です。しかし、親はときに子どもへ理想を押し付け、無理をさせてしまいがちです。本記事では、ハーバード大学、東京大学、開成高校のそれぞれで教鞭をとったベテラン教育者で、東京大学名誉教授・北鎌倉女子学園学園長の柳沢幸雄氏が、子育て中の保護者に向け、子どもの失敗を許容し、主体性を尊重する大切さについて解説します。※本連載は、『「頭のいい子」の親がしている60のこと』(PHPエディターズ・グループ)より一部を抜粋・再編集したものです。

親も完璧ではないのに、子どもにばかり要求するのは…

学校の勉強、友達関係、受験や部活動……。保護者は、つい子どもが心配になり、先回りして、失敗しないように手はずを整えてしまいがちですが、それはやらないほうがいい。失敗しない人生を目指さなくていいのです。

 

保護者の方も、考えてみれば、たくさん失敗してきているはずです。でも、ちゃんと生きています。失敗したからこそ、今の自分があるのです。その自分に自信を持てばいい。むしろ、保護者の方は、子どもに失敗したときのことを話してあげてください。

 

親が子ども時代のことを、子どもに伝えるのはとても大切なことです。親にも子ども時代があったのだと。そのときにはやんちゃだったり、忘れん坊だったり、恥ずかしがり屋だったり、自分のリアルな様子も話すと、子どもはほっとします。

 

「試験の前なのに小説ばかり読んでいて、ちっとも勉強しなくて最悪の点数だった」「試験の前日、友達といかに勉強していないかを夜中に電話していたら朝になった」「部活をサボっていたらレギュラーをはずされた」などなど。

 

実は保護者だって、そんなにちゃんと勉強していなかったのです。品行方正でもなかったでしょう。それなのに、子どもにばかり要求するのも、おかしなことなのです。さまざまな失敗をし、親や先生に怒られながら、それでもなんとかかんとか大人になって、今がある。そのエピソード自体が、子どものロールモデルになるのです。

 

でも話を盛ってはいけません。武勇伝を語る必要はありません。保護者の子どもの頃の写真や、卒業文集があったら、ぜひ子どもに見せてあげましょう。「こんなに太っていたんだ!」「ちょっと不良っぽい」「汚い字!」などと笑い合うのも、楽しいはずです。

 

そして、そんな子ども時代を送りながら、結婚して親になって、自分の面倒を見てくれている。微笑ましく親近感の持てる子ども時代を共有しながらも、子どもは親の成熟を目(ま)の当たりにし、「お父さんやお母さんはそれなりにがんばったのだ」と痛感する。そして、親に対して尊敬の気持ちも持てます。

 

失敗をしてこそ生身の人間、失敗してこそ親の今がある。親がカビ臭い昔の、あるいはだれかが作った理想像を掲げ、「こういうふうになってほしい」「なぜなれないんだ」と子どもを責め立てたら、それは自分の人生を棚に上げたことになり、血の通ったあたたかみのある話にはなりません。

 

それより、失敗を乗り越えた自分を子どもに語り、笑いの中から、歩むべき道を自分の行動から教えてあげましょう。

 

 

柳沢 幸雄

東京大学名誉教授

北鎌倉女子学園学園長

「頭のいい子」の親がしている60のこと

「頭のいい子」の親がしている60のこと

柳沢 幸雄

PHPエディターズ・グループ

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