人生100年時代、楽しい時間を少しでも長く味わうには、体はもちろん、頭の健康維持も重要です。しかし、自分では認知機能の鍛錬に努めているつもりでも、医師の目で見ると「これでは効果がないだろうな…」という方法を取っている人も散見され、注意が必要です。第一線で活躍する内科医が解説します。本記事は『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

知的好奇心の高い人ほど、認知機能は保たれるが…

多くの人が「一定の年齢を超えたら脳は衰える一方。だから高齢になると記憶力が衰えて物の名前が出てこない」と考えており、「今さら勉強しても仕方がない」と新しいことにチャレンジするのを諦めてしまっています。年齢を重ねるにしたがい、その傾向は強くなるように思われます。

 

しかし、それは大きな誤解です。脳は鍛えれば、一生成長を続けることが最近の研究で分かっています。確かに、脳の神経細胞の数は年齢とともに減少しますが、さまざまな経験を積むことで脳の神経細胞同士のネットワークは広がり、密になります。また、使われていない未熟な脳細胞が存在し、これは新しい刺激で発達することが明らかにされています。ですから、このネットワークを強化していくことで、脳はさらに成長できるのです。

 

そのためには頭を使うこと。つまり、何歳であろうと勉強する、新しいことを始めるなどして脳を刺激し、活性化することが大事なのです。これは、認知症の予防にもつながります。

 

実際に、知的好奇心の高い人ほど認知機能は保たれ、脳の萎縮が少ないことも分かっています。知的好奇心とは、知りたい、学びたい、達成したいといった気持ちのことで、具体的には勉強や仕事、趣味、ボランティアなどにイキイキと取り組んでいる人ほど、脳は若く保たれているのです。したがって、いくつになっても好奇心を持ち、学ぶ心を失わなければ脳の働きは活発になるということです。

 

特に記憶力の低下を防ぐには、繰り返し覚えることが大切です。例えば、よく「本を読んだ」といいますが、その内容を尋ねると曖昧なことが多く、ただ流しているだけで覚えようとしていないので、あとで聞かれても何が書いてあったのか内容を説明できません。つまり、脳に記憶として定着していないのです。

 

漫然と読んではダメだ(※写真はイメージです/PIXTA)
漫然と読んではダメだ(※写真はイメージです/PIXTA)

諦めた瞬間から記憶力は下がり、脳の老化が始まる

記憶には、すぐに忘れてしまう「短期記憶」と、ずっと覚えている「長期記憶」があります。スーパーマーケットで何を買うのか覚えるような一時的な記憶を短期記憶といい、これは脳の海馬という場所に保存されます。これに対し、自分の住所やメールアドレス、友人の名前など半永久的な記憶を長期記憶といい、これは海馬周辺の記憶の回路をグルグル回っているうちに大脳皮質の連合野で整理され、長期保存されます。

 

つまり、海馬自身が記憶しているのが短期記憶、これを繰り返し思い出すことで深く記憶にとどめ、大脳に移し終えた記憶が長期記憶ということです。

 

したがって、ほとんどの記憶は短期記憶になっているということです。ただ、短期であっても何度も体験することや思い出すことで重要度が高まり、長期にわたって記憶できるようになります。このように記憶は、ただ覚えるのではなく、繰り返し思い出すことで保存し直し、強化されていくものなので、ただ覚えるだけで思い出すことをしていないと神経細胞のネットワークが活性化されず、忘れてしまいます。

 

ですから年齢にかかわらず、諦めたときから記憶力は低下し、脳の老化が始まることになります。そこで、私がお勧めしているのが、全部を覚えるつもりで何回も繰り返して本を読むことです。そうすると、最初は難しくて理解できないことでも考えるようになるので、徐々に分かるようになります。これによって内容が深く細部にわたって記憶され、神経細胞も活性化して脳の老化予防になるのです。

 

こうした脳の仕組みから見てみると、考えることが大事なので、得意なことばかりをやっていたのでは脳の特定の場所しか使われないし、脳も慣れているので活性化しません。この状態では、脳の成長に不可欠な神経細胞のネットワークが広がらないので、あえて難しい本を読んでみたり、苦手なこと、不慣れなことに挑戦するとよいでしょう。そうすれば、未発達な脳の場所が刺激され、苦手を克服できるばかりか、新たな能力が開花する可能性もあります。

 

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    永野 正史

    幻冬舎メディアコンサルティング

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