人生100年時代、楽しい時間を少しでも長く味わうには、体はもちろん、頭の健康維持も重要です。しかし、自分では認知機能の鍛錬に努めているつもりでも、医師の目で見ると「これでは効果がないだろうな…」という方法を取っている人も散見され、注意が必要です。第一線で活躍する内科医が解説します。本記事は『110歳まで元気に生きる! 実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

社会の変化に合わせ、価値観も柔軟に変えていく

人は、歳を取ると頭が固く頑固になるといわれます。こだわりを持つのは大事なことと思いますが、そうした融通の利かないところが、ときには視野を狭めて自分を追い詰め、生きにくくしている場合もあります。

 

歴史を見ても日本の場合は、明治維新で士農工商がなくなり、身分が皆平等になりました。ここで、価値観が大きく変わりました。次は太平洋戦争に負け、それまでの価値観とは180度ガラッと変わりました。昨日まで学校の先生が言っていたことは、今日になると真逆となり、教科書は塗りつぶされて真っ黒になるほど価値観が変わっていたといいます。子どもたちも戸惑ったと聞き及んでいます。

 

このように、社会の変化に伴い、私たちの価値観も意識していないだけで変わってきているのです。昔はまだ使える物を処分したりすると「もったいない」といわれましたが、今は新しいものにどんどん買い替える時代です。

 

コンビニエンスストアにしても、当初は夜の11時に閉まっていましたが、その後は24時間営業が当たり前となり、そしてこの度のコロナ禍により再び営業時間が見直されています。社会活動に準じ、私たちのライフスタイルも対応せざるを得なくなっているのです。

 

今後は、経済の成熟化、グローバル競争の加速、AIをはじめとするテクノロジーの急速な発達、それに加えて長寿化などを背景に、近い将来あらゆる業種が変化を迫られることとなり、私たちの価値観にも同様のことが起こるはずです。

 

そういう時代の渦中にいる私たちは、世の中の大勢を占める価値観と合致して生きていれば無風状態でいられますが、それに逆らったりズレた価値観で生きようとすると、良い悪いは別にして無理が生じ、息苦しくて非常に生きにくくなるでしょう。これは、人間も群れで生きているからではないでしょうか。

環境への不適応が「自分を見失う」ことになりかねない

日本の場合は特に、皆同じ、平等と教育されてきたために、他人と違うことを恐れる傾向にあります。

 

私の子ども時代は、徒競走で1位、2位と順位がつき、1位になれば喜び、ビリになれば悔しがって来年は頑張ろうと思ったものです。ところが現代は、順位をつけなくなった小学校が多いと聞きます。幼稚園になると、みんなで手をつないで一緒にゴールするといいます。これも社会の流れであり、私の子ども時代とは価値観が変わってきています。

 

したがって、世の中の流れに乗って生きていくことは、価値観も自然と変わっていくことを意味しています。言い方を変えれば、環境に適応しているので生きやすいともいえます。それが、時代の変化を受け入れず、環境に適応できなくなると生きる基盤が揺らぎ始め、自分を見失うことにもなりかねません。

 

そうなると、「今までの自分の人生は何だったのか」と絶望しかなくなります。これはとても不幸なことです。

 

そもそも価値観とは、その人の生きてきた経験や学んできたことを根拠として形成されています。ですから歳を重ねるごとに、その価値観は強いものにもなっていくように思います。つまり、歳を重ねた人の価値観は、あらゆる気持ちや意味を内包しているがゆえに、深みも伴いますが、逆にそれを変化させていくことも難しいものになってきます。その原因は、ある程度のことが分かった気になり、自ら学ぶことをやめてしまうからです。

 

これは文字通り、頭が固いために脳の老化も早めてしまう結果を招きます。したがって、長生きするためには適応力も必要となります。「もう歳だから」ではなく、「まだまだイケる」と前向きに、社会の変化に合わせて柔軟に価値観も変えていき、自ら学ぶ姿勢で時代の波に乗るほうが、生きやすくなるのではないでしょうか。110年生きるのですから、いろいろな経験をして生きてみるのが楽しいと私は思います。

 

 

永野 正史
練馬桜台クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本腎臓学会 専門医
日本透析学会 専門医・指導医

 

 

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110歳まで元気に生きる!実験オタクなドクターに学ぶ健康長寿のウソ・ホント

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永野 正史

幻冬舎メディアコンサルティング

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