遺言さえ書いていれば、こんなことには…
もし仮にMさんが、「私の財産はすべてNに相続させる」という遺言を書いていたら、Mさんの財産は、Nさんが不動産も預貯金もすべて相続することになります。
ところで、遺言により、相続財産を受け取ることができない、あるいは少ししか受け取ることができない相続人がいるときは、「遺留分(いりゅうぶん)」に気をつけなければなりません。遺留分とは、「相続人が相続財産から受け取れることを法律が保障している一定の相続分」のことをいいます。
遺留分がある法定相続人は、配偶者、第一順位相続人、第二順位相続人です。配偶者とは法律上婚姻関係にある相手方のことをいい、第一順位相続人とは子などの直系卑属(ひぞく)のことをいいます。また、第二順位相続人とは親などの直系尊属のことをいいます。
さて、第三順位相続人である兄弟姉妹には遺留分がありません。Mさんのケースにおいては、相続人は配偶者であるNさんと兄であるOさんのみですので、Nさんには遺留分がありますが、Oさんには遺留分がありません。ですので、この遺留分のことを加味しても、もしMさんが、「私の財産はすべてNに相続させる」という遺言を書いておいていたなら、Oさんから遺留分を請求されることもなく、Mさんの財産は文字通りNさんが相続することができたことになります。
亡くなったMさんとしても、何十年も連絡を取っていなかったOさんに、自分の財産を相続させたいと思っていたかどうかはわかりませんが、自分が亡くなると、相続財産はすべて当然のように妻であるNさんが相続すると思い込んでいたかもしれません。
お子さんのいないご夫婦は、ご自身が亡くなった後に誰が相続人となるのかを把握しておき、ご自身が望む結果となるように対策をしておいてはいかがでしょうか。また、Nさんのように配偶者が財産の名義人になっているときは、配偶者が亡くなった後のことを考えて、配偶者に対策をしてくれるように促すことも大切なことだと思います。
石川 宗徳/森田 努/島根 猛/佐藤 良久/近藤 俊之/幾島 光子