今回は、個人クリニックと医療法人では、相続においてどちらがトクになるのかをみてみます。 ※本連載は、税理士・上条佳生留氏の著書、『院長先生の相続・事業承継・M&A 決定版』(きんざい)の中から一部を抜粋し、医療関係者の相続・事業承継の問題解決について、具体的な事例をもとに分かりやすく説明していきます。

財産評価が異なる個人クリニックと医療法人

院長 「やれやれ、僕たちも今年で還暦だな・・・」


友人 「ああ、早いもんだ」


院長 「そういえば、今年のお盆に帰省した息子から、相続対策をしているかどうかの質問をされたんだよ」


友人 「おいおい、気が早過ぎないか?」


院長 「僕もそう思ったんだけど、どうやらこのままだと税金が大変だから、対策してほしいということみたいなんだ」


友人 「おいおい気になる話だな。それで、息子さんは、どんなことをしてほしいといっているんだ」


院長 「息子がいうには、個人のクリニックのままだと、相続税が医療法人より高額になるって話なんだよ・・・」


友人 「いまさら?」


院長 「そうなんだ。いまさらだけど、医療法人の設立をしたほうがいいのかなあ。どう思う?」


友人 「僕は、所得税の節税ってことで、税理士にすすめられて勢いで設立したからなあ。相続税のことまでは考えてなかったよ・・・」

 

相続対策の一つとして、財産の評価額を下げる方法があります。そのためには、クリニックに関係する財産の評価の仕組みを知る必要があります。クリニックを経営する場合、大きく分けて個人と法人があり、個人のクリニックと医療法人の評価方法は異なっています。

個人クリニックに関する全ての財産と債務が課税対象

1.個 人
個人の場合は、院長の個人的な資産負債を含め、クリニックに関係するすべての財産と債務が相続税の課税対象となります。したがって、クリニックの土地建物や医療機器などの財産と、借入金など債務を個々に評価しなければなりません。

 

2 医療法人
医療法人の代表的な形態で社団医療法人がありますが、その評価方法は「出資持分あり」と「出資持分なし」に区分されます。平成19年4月の医療法改正により、平成19年4月以降に申請された医療法人は「出資持分なし」に限ることとなりました。


医療法人を設立する際に出資をしますが、出資者が出資持分に応じて払戻しの請求をすることができる医療法人を「持分の定めのある医療法人」といい、払戻しの請求をすることができない医療法人を「持分の定めのない医療法人」といいます。持分の払戻しの請求の可否により受け取ることができる金額が変わりますので、評価方法はやはり異なる方法になります。


①持分の定めのある医療法人
持分の定めのある医療法人の場合は、出資持分が相続税の課税対象となります。出資持分は、医療法人に出資をした者が、その医療法人の資産に対し、出資額に応じて有する財産権をいいます。


出資持分の評価は、「取引相場のない株式の評価」に準じることとなっています。「取引相場のない株式の評価」というのは、主として非上場企業の株式の評価に使用される方法で、その法人の純資産価額を基準にする方法と同種同規模の法人の数値を基準にする方法を併用して計算します。

 

②持分の定めのない医療法人
持分の定めのない医療法人の場合は、基金に拠出した金額が相続税の課税対象となります。医療法人を退職する際に払い戻される金額は、拠出した金額が限度になります。


今後医療法人を設立する場合は、持分の定めのない医療法人が前提になっています。医療法人の理事長に相続があった場合、上記のとおり相続税の評価額は、基金の拠出金額になります。経営が順調で利益が医療法人に多額に留保されていても、承継の際に相続税の課税対象になるのは、あくまで基金の拠出金額です。次世代に引き継ぐ際に相続税の税負担が軽減されることになります。


しかし、医療法人を解散する場合には、留保されている残余財産は国および地方公共団体に帰属することとなりますので、その点をふまえたうえで検討することが必要になります)。

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    本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『院長先生の相続・事業承継・M&A決定版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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