今回は、所得税の軽減にも繋がる「MS法人」について見ていきます。※本連載は、税理士・上条佳生留氏の著書、『院長先生の相続・事業承継・M&A 決定版』(きんざい)の中から一部を抜粋し、医療関係者の相続・事業承継の問題解決について、具体的な事例をもとに分かりやすく説明していきます。

診療以外の業務を担うことを目的とした法人

院長 「先輩、先日、私の顧問税理士さんがきて、去年分の確定申告について報告をしていったのですが、私の所得税は最高税率が適用されて、利益の半分近く税金になってしまったんです。ひどいと思いませんか。何かいい税金対策をご存知ないですか?」


先輩 「それは豪快に税金を支払ったものだね。国家財政に寄与したんだから、大いに誇りなさいといいたいところだが、ずいぶん手痛い経験をしたもんだね」


院長 「そうなんですよ。先輩のところも大変ご繁盛ですが税金対策はどうしているんですか」


先輩 「対策にもいろいろあるけど、僕はMS法人をつくったよ」


院長 「MS法人・・・、そういえば聞いたことありますね。でも、そもそもMS法人は何をする会社なんですか?」


先輩 「簡単にいうと医療以外だよ。いろいろあるだろ」


院長 「サッパリわかりません」


先輩 「説明するのめんどうだから、詳しくは税理士さんに聞いてよ。とにかく、うちは実質の税負担が減ったよ」


院長 「うーん・・・MS法人かあ、気になるなぁ」

 

MS法人とは、クリニックが行わなくてはならない業務の一部を、クリニックに代わって行うことを目的に設立する法人をいいます。MSとは、メディカルサービス(Medical Service)の頭文字をとった略称です。


MS法人は、クリニックが本来行うべき医療行為とクリニック自体の経営を切り離し、クリニックの経営部門を担うことを目的として設立します。形式的には、クリニックの診療以外の業務をMS法人が代わって行うことになります。これにより、クリニックの種々雑多な業務を効率化することができます。


また、MS法人は普通の株式会社であることから、医療法による規制を受けることがなく、医療機関ではできないビジネスを行うことが可能となります。さらに、MS法人へ業務委託することによって、クリニックでは外注費が増え、その分、所得税を軽減することが可能となります。

マンションや一戸建てを購入し、院長へ貸すことも可能

では、MS法人へ委託する業務にはどのようなものがあるのか、いくつかご紹介しましょう。

 

1.請負業務

 

クリニックにおいては欠かせない受付業務、保険請求事務、経理事務などの事務代行業務です。これらの業務は、どのクリニックにおいても必要不可欠であり、人材を必要とする業務であるため、最もMS法人へ移行しやすい業務であるといえます。


なお、事務代行業務は、一見、人材派遣業と類似していますが、業務そのものを請け負うため、人材派遣業のように厚生労働大臣の許可が必要になることはありません。逆の見方をすれば、MS法人も厚生労働大臣の許可さえ受ければ、ほかのクリニックへの人材派遣を行うことが可能となります。


また、病床を有するクリニックにおける給食業務の請負や、白衣・制服・シーツなどの洗濯を行うリネン業務をMS法人に請け負わせることも可能となります。

 

2物品の仕入販売業務

 

事務代行業務と同じく、クリニックを経営していくうえで必要となる物品の販売業務もMS法人に委託できます。たとえば、紙やボールペンなどの文房具・事務機器、クリニックの診療に直接必要なガーゼや注射針などの診療材料、待合室用の書籍類など一般雑貨消耗品の販売です。


この場合はまず、MS法人においてクリニックで必要となる物品を一括して購入します。その後、付加価値をつけてクリニックへ販売することになります。

 

3不動産の賃貸業務

 

医療機関では、自院の利用目的以外の不動産の所有が認められませんが、MS法人にはそのような規制はありません。このため、MS法人でマンションや一戸建てを購入し、院長へ貸し付けることができます。


また、MS法人でテナントビルの一室を賃借し、内装造作工事を行ったうえで、院長がクリニックを開くこともできます。この場合、通常よりも高めの賃料で貸すことができます。さらに、MS法人でビル物件を購入または建設して、一部をクリニックにし、ほかを第三者に賃貸することで、院長のリタイア後の収入源とすることができます。


このように、MS法人には、通常医療機関で必要となる業務に限らず、医療機関ではできない業務を行わせることができ、幅広いビジネスを手がけることが可能となります。ここでは一部をご紹介するにとどめましたが、MS法人の業務分野はほかにもあります。そのなかには特別な許可が必要になるような業務もありますので、一度、税理士に相談してみることをお勧めします。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『院長先生の相続・事業承継・M&A決定版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

院長先生の 相続・事業承継・M&A 決定版

院長先生の 相続・事業承継・M&A 決定版

上條 佳生留・税理士法人ブレインパートナー

きんざい

本書は、医業関係者の相続・事業承継・M&Aについて、医業に特化した会計事務所が、具体的な事例をもとに、解決方法をわかりやすくアドバイス。 「クリニックの土地の名義が父のままだと、相続手続でトラブルになるのですか?」…

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