賢い消費者のための基礎知識「契約の取り消しと無効」
【消費者契約法】第1条(目的)
この法律は、消費者と事業者との間の情報の質と量、交渉力の格差を考え、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、または困惑した場合等について契約の申し込み・承諾を取り消すことができるようにし、また、事業者の損害賠償責任を免除する契約条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる契約条項の全部、または一部を無効とする……ことにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
民法では、行政法や刑法などの公法と違い、契約を結ぶに当たっては、その内容を当事者が自由に決めることとされています(契約自由の原則)。
当事者同士の自治に任せる考え方です(自由主義の哲学)。しかしながら、そうすると不都合な場面が往々にして生じます。事業者である売り主と消費者である買い主との間には、情報の質・量や交渉力などに格段の差があります。自由に任せると、弱者である消費者は事業者から与えられた情報だけで判断しなければなりません。すると、弱みをつかれるなどして、不利益な契約を結んでしまうことになりかねません。
そこで消費者の利益を守るために、さまざまな法的手段が与えられています。法改正も相次ぎ、その手段は強化されています。
「契約取り消し」ができるケース、できないケース
代金を支払ってしまったけれど、後から後悔することもあるでしょう。もしその理由が、業者の悪質で不当な手口によるものであれば取り消せます。
例えば、次のような場合です。
●重要事実について、事実と違うことを言われて誤解した場合(不実告知)
●「将来、絶対に値段が上がるので今買うとお得」と断定的に言われて、それを信じ込んだ場合(断定的判断の提供)
●押し売りに来られ、帰ってくれないので根負けして購入した場合(押し売りの不退去)
●ある場所に誘い込まれ、従業員に取り囲まれてしかたなく購入した場合(監禁状態)
●「これを持っていないと不幸になる」などと、不安を煽られて購入した場合(霊感商法)
●恋愛感情から購入させられた場合(デート商法)
特に、加齢等によって判断力の著しい低下がある場合に不安を煽られてした契約は取り消すことができるという規定があります。新手の悪徳商法が出るたびに、いたちごっこではありますが、改正がなされています(参考:「認知症の人による大量購入」の問題については、次回に詳述します)。
契約を取り消したい場合は、不当であることに気付き、そのまま受け入れるか(追認)、または、取り消すかについて判断できるようになったときから1年間が限度です。
気付くのが遅く、契約を結んだときから5年経過すると、この手段では取り消せません。別の手段を検討しましょう。
消費者の利益を一方的に害する条項は「無効」
【事例】レンタルDVD「延滞料金5万超」!?商品価値を上回る請求の正当性
DVDレンタル料金は、1日300円。ところが、6ヵ月間入院していて返却をし忘れていたら、なんと5万4千円の請求書が届きました。確かに計算上はそうなりますが、1枚5千円のDVDなのにひどいのでは?
1日300円の使用料の契約条項は、それだけでは一見、違法性はありません。しかしそのまま長期間にわたって適用すると、商品の価値をはるかに超える高額の使用料になってしまい不当です。
これは消費者側の利益を一方的に害してしまうということで、「この契約条項を無効とする」という極めて強力な法的手段があります。さまざまな場面で応用がきく、消費者にとっては力強い武器ともいえます。
さらに、無効の場合には、契約がなかったことになるので、期限の制限はありません。
<その他の条文>
【消費者契約法】第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申し込み、またはその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
住田 裕子
弁護士(第一東京弁護士会)
NPO法人長寿安心会 代表理事