景気低迷、コロナ禍、少子高齢化・多死社会の到来…。悩み多き現代、心を健やかに保つには、周囲の人たちとの絆だけでなく「お互いを支える技術」が大切です。ここでは、医師として終末期医療、緩和ケアの第一線で活躍し、患者やその家族と深い信頼関係を築いてきた筆者が、相手に寄り添い信頼関係を深める対話術、「傾聴」を軸としたコミュニケーションスキルを紹介します。※本記事は、『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』(大和書房)から一部抜粋・再編集したものです。

もし相手が「うつ病」なら、傾聴では対応できない

③苦悩者の中に、一定数以上潜む「うつ」を見逃さない

 

見出し通りです。しかしこの記事を読んでくださっている方は、ほとんどが精神科医の方ではないでしょうから、どうやって判断するの? と思うかもしれません(医者でも精神科医や心療内科医でなければ、なかなかうつとわからないこともあるくらいです)。

 

うつを発見するには、もちろん「一日中気持ちが落ち込んでいたりしませんか?」「今まで好きだったことが楽しめなくなったりはしていませんか?」という、うつの可能性を抽出する質問があったり、うつ病の診断基準の利用などもあるのですが、それよりは傾聴者が観察して、何度か話を聴いてもまったく苦悩の程度が変わらないばかりかむしろどんどん増える場合や、行動レベルでの異常が目立ってきている場合などは、やはり精神科医等の専門家を受診してもらうことが重要でしょう。

 

と言いますのは、「うつ病」という状態になると、周囲がどれだけ傾聴したとしても、それだけで良くなるのは難しいからです。やはり「抗うつ薬」といった治療薬が必要になることも多いです。

 

もちろんうつになる前の段階では、国際医療福祉大学三田病院精神科の平島奈津子先生がうつの原因となり得るストレスの解消法として、「人に話を聞いてもらうのは一つの方法。米国の女性を対象にした研究では、かかりつけの精神科医を持っている人より、話を聞いてくれる女友達を持っている人の方がうつになりにくい、という結果が出ています」(『日経ヘルス』2013年2月3日)

 

とおっしゃっているように、非専門家でも(むしろしばしばそのほうが)良き傾聴者であることはできるのです。

 

ただ一度、「うつ病」となってしまうと、傾聴だけでは難しいです。ゆえに度を越した苦悩者の場合、専門家の助けを借りることを念頭に関わるべきです。うつ病は自殺の原因の相当な部分を占めているといわれます。見逃すと悲しい結末に至ることがありますから、十分な注意が必要です。援助者が了解不能な、合理的な理由がなく、また突き動かされるような衝動めいた「死にたい」という訴えがくり返されるような時は、もちろん注意しなければいけません。一刻も早く専門家に診てもらうべきでしょう。

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傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

大津 秀一

大和書房

相手が元気になる「聴き方」。医療・介護現場のプロが必ず実践している、本当の「聴く力」とは? ●大切な人の悩み相談に真剣にこたえている ●自分なりに一生懸命アドバイスもしている なのに、相手が元気にならない……

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