景気低迷、コロナ禍、少子高齢化・多死社会の到来…。悩み多き現代、心を健やかに保つには、周囲の人たちとの絆だけでなく「お互いを支える技術」が大切です。ここでは、医師として終末期医療、緩和ケアの第一線で活躍し、患者やその家族と深い信頼関係を築いてきた筆者が、相手に寄り添い信頼関係を深める対話術、「傾聴」を軸としたコミュニケーションスキルを紹介します。※本記事は、『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』(大和書房)から一部抜粋・再編集したものです。

言葉以外の「非・準言語的メッセージ」が重要なワケ

<Q> 話した内容を誤解されることが多いのです。

 

自明のように見えますが、時折忘れがちなものとして、同じ言葉でも人によって指し示すものの範囲が違うということはよくあります。

 

例えば「頑張る」にしても、頑張るという気持ちを持てば良い、と考える人から、しゃにむに行動して必死に努力する、と考える人もいます。「頑張ってね」と前者の人に言えば、「そうですね」となるかもしれませんが、後者の人だと「こんなに頑張っているのにもっとですか!?」となってしまうかもしれません。

 

はっきり言って、ある言葉が規定する範囲は、人によってまったく違うということを知らねばなりません。言葉の限界を十分に知ることです。だからこそ言葉以外の「非・準言語的メッセージ」が重要なわけです。日本語でも「結構です」が、文脈だけではなく、その態度、身ぶりなどでイエスとノーがわかれるように、同じ言葉でも、「非・準言語的」な要素で意味がまったく変わってしまうこともあります。

 

だから言葉での共有は難しいのです。一方で「物語」にはもう少し流れがあり、背景がありますから、単発の言葉よりは(受け取り方の差異は当然あるでしょうが)共有しやすいと言えると思います(だから物語で共有することを勧めています)。『「臨機応変」に対応しよう!』といっても、その人によって臨機応変の範囲はまったく異なります。「ことが起こってから柔軟に対応する」と考える人もいれば、「ことが起こる前に柔軟に対応する」と考える人もいます。

 

卑近な例で言えば、医療現場でも「苦痛を取り除こう!」と共有しても、苦痛の範囲や感じ方が人によって違うために、医療者間でもしばしば深刻な対立も招きます。他の仕事場も、言葉の指し示すものが異なるがゆえの行き違いは少なからずあるのではないでしょうか。

 

私がそれをとりわけ痛感した一つは取材です。『死ぬときに後悔すること25』という本を書いた時に、たくさんの取材を受けました。後で取材をまとめた原稿を確認する時、毎回驚かされるのです。例えば1~2時間話し、取材者も頷いて納得され、「とてもよくわかりました」と帰っても、出て来る内容は私の意図とは異なる文章になっていることが時々あるのです。

 

こんなに人の捉え方って違うんだ……。

 

というのが正直な感想です。

 

同様に医療現場でも、患者さんやご家族と医療者の言った言わないのトラブルも、多分に言葉の捉え方の違いであることがしばしばあるのです。プロの書き手でも、私の意図を文章に表現することは難しいのです。当然です。必ず書き手の主観が混入するからです。「言葉」で切り取り、表現し、共有することは決して簡単ではありません。その「言葉」の持つ特性に私たちは敏感にならねばなりません。

 

ではどうすれば良いのでしょうか?

 

あああ
「言葉」で切り取り、表現し、共有することは簡単ではなく…(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

大津 秀一

大和書房

相手が元気になる「聴き方」。医療・介護現場のプロが必ず実践している、本当の「聴く力」とは? ●大切な人の悩み相談に真剣にこたえている ●自分なりに一生懸命アドバイスもしている なのに、相手が元気にならない……

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