「グレーゾーン」という言葉も隆盛しているが
たとえば、冷え症かもしれない女性社員がいるので冷房の温度を高く設定する。心臓病かもしれない社員には荷物を持たせない。冷え症なのか、心臓病なのか決められないのに、暑がりの社員、荷物を二倍持たなければならない社員はどうしたらよいでしょう(まぁ、冷え症か心臓病かは、聞けばわかりますけど……)。
発達障害への対応についての提言は、そもそも前提が違います。発達障害と診断された後と、発達障害かもしれない、わからないという時点での問題は、実際の現れ方と困り方が違います。
発達障害と診断され精神障害として認められれば、社会的にも障害として認められます。その時点ではじめて、本人と職場の合意をもとに、どのように対応していくか考えることができます。
職場は、家庭でも学校でもありません。本人のプライバシーや人権にも関わりますから、はっきりしないうちから、対応はできませんし、求めることもできません。
昨今は、グレーゾーンという言葉もありますが、発達の凸凹が、明らかに障害とわかる人から一般の人までグラデーションのようにあり、判断の難しい障害です。そのため、あいまいな印象と、誤解や不安を与えやすいと思います。職場で起きている人間関係の事実と、働くことと発達障害、これら一連のことをどのように考えていったらよいのか探っていきたいと思います。
本連載では、職場で出会う発達障害かもしれない人たちのことを、「発達障害の傾向がある人」と呼ぶことにします。発達障害の傾向がある人にも周りの人にも、どちらかに肩入れする話ではありません。両方の人たちの悩みや苦しさには、人間関係的な閉塞感を感じ、少しはオープンに考えることができ、ともに、病まずに、生きていくことはできないものかと思っています。
※カサンドラ症候群
カサンドラ症候群のカサンドラは、ギリシャ神話に出てくる王女の名前である。太陽神アポロンに愛され予知能力を授かるが、その予知能力でアポロンの愛が失われることを知り、アポロンを拒絶する。