相続放棄すれば他の親族が相続人になる
まずは相続放棄の条文を確認しましょう。
【民法第939条】
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄をした場合は、その相続に関しては初めから相続人にならないことになります。CさんとDさんが相続放棄すると、この二人は相続人ではなくなるのですから、Aさんの相続人は、配偶者であるBさんだけになるように思われます。
しかし、実はそういうことにはなりません。配偶者は常に相続人になりますが、配偶者以外の相続人は子がいる場合は子が第一順位の相続人となります。また、第一順位である子がいない場合には第二順位へ、ここもいないと第三順位の相続人へと相続権が移っていくのです。よって、相続放棄により子が相続人にならないような場合では、被相続人の親が生きていれば親が相続人となりますし、親が亡くなっていれば、被相続人の兄弟姉妹、兄弟姉妹も死亡している場合にはその子(甥姪)が代襲して相続人となるのです。
相続放棄により、薄情な叔父Eが相続権を獲得
今回の事例においては、被相続人Aさんの両親はすでに亡くなっていましたが、実はAさんには仲の悪い弟Eさんがいたのです。息子Cさん・Dさんが相続放棄をしてしまったので、子の二人は初めから相続人ではないことになり、第三順位の相続人であるEさんが相続権を得てしまいました。
Aさんと不仲であったEさんは、相続手続きには非協力的です。加えて、Bさんとの話し合いにも応じてくれません。Bさんは自宅不動産に住み続けたいので不動産を相続したいこと、今後の生活のこともあるので預貯金についても相続したいことを必死にEさんに伝えました。ですが、Eさんは自分自身が法律で認められている法定相続分については相続権がある旨を主張して譲歩してくれません。
相続人間の任意の話し合いによる遺産分割協議ができない場合は家庭裁判所に遺産分割調停という申立てを行う必要があります。
結局、Bさんは家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになりました。遺産分割調停のなかでも、EさんはBさんが遺産を相続することには応じてくれず、最終的にEさんに対して法定相続分である遺産の4分の1に相当する金銭をもっていかれることになりました。Eさんには遺産の4分の1を相続する権利が法律的にあるので、その後の生活などの事情があるにせよ、裁判所はBさんが全財産を相続することを認めるわけにはいかないのです。
相続放棄の要否には慎重な判断が必要
今回、CさんとDさんはよかれと思って相続放棄を行ったわけですが、法定相続人の順位が変わってしまうことを考慮せずに手続きしてしまったために、このような悲劇が起きてしまいました。
相続放棄は、被相続人が非常に大きな借金をのこして亡くなってしまったような場合において、相続人をいわれのない債務から救済する制度ではありますが、使い方を間違うとこういった悲劇が起こり得ます。そのため慎重に考えてから行動を起こさなければなりませんが、手続きの期限は非常に短く、3ヵ月間しか申請できません。葬儀等でバタバタしていると本当にあっという間に過ぎ去ります。
相続放棄の手続自体はそれほどむずかしいものではありませんが、今回の事例のように目の前の手続きだけを見るのではなく、様々なリスクを検討することが大切です。一度は専門家に相談されることをおすすめします。
佐伯 知哉
司法書士さえき事務所 所長