競売が公示されると、業者の訪問は避けられないが…
裁判所に競売の公示が貼り出されると、それを情報源とする任意売却専門会社が多数、債務者の家を訪れるようになります。住所や氏名が貼り出されるため、これを防ぐ手立てはありません。
任意売却専門会社は千差万別で、会社の営業方針や考え方、アプローチの方法も会社によって異なります。前述のように怪しい会社も多数交じっていますが、訪問により依頼の契約をとろうとする会社は特に誠実さに欠ける傾向があります。
不動産の売買が成立すれば、仲介をする任意売却専門会社には仲介手数料が入ります。売却代金の3%プラス6万円と上限が定められていますが、たとえば2000万円で売却できれば66万円に消費税という報酬を得ることができるのです。
債務者と話をするために「手段を選ばない」業者も
他の会社にいかないように、任意売却専門会社の中には「お宅の会社だけに任せます」という契約──専任媒介契約を結ばせて、かなりあくどい手段をとるものも少なくありません。
特に自宅の競売申立がなされた人の家に押しかける「訪問系」の会社は、1日にたくさんの家を訪れるのが日課になっているので、「1回の訪問で契約がとれるケースかとれないケースかはっきりさせたい」という思いを強く持っています。そのため債務者と会って話をするためには手段を選ばないという習性があるのです。
事実上野放し…任意売却専門会社の「販促活動」
一昔前には貸金業者の非人道的な取り立てが大きな社会問題になりました。昼夜を問わない訪問や電話連絡、家の前で大声を上げる、違法に敷地内に侵入するなどの行為が頻発したため、その後貸金業法が改正されることとなりました。
改正貸金業法では督促の方法が厳しく制限されており、破ると罰せられるため、現在では貸金業者による違法な取り立てはほぼなくなっています。
ところが任意売却専門会社の販促活動については貸金業法のような規制がありません。事実上野放しになっているため、悪徳金融業者も真っ青という行為が現在でも平然と行われているのです。
家の前で大声を出す、郵便物や表札を盗む…
【悪徳業者の手口】
① 家の前で大声を出す
悪徳業者が多数押しかけるようになると、対応に困った債務者は居留守を使うようになります。業者の側はなんとか面談して専任媒介契約書に判を押させたいので、あの手この手を使います。その一つに「家の前で大声を出す」という行為があります。「家が競売になったXさーん、いないんですか?」などと呼びかけ、近所の目が気になる債務者が慌てて出てくるよう仕向けるのです。
その他、所有者の帰宅を狙って夜に、あるいは朝早くに突然来訪したり、他の業者と接触させないように、車を玄関の前に横付けするなどの迷惑な行動を取ることも少なくありません。
②「裁判所のほうから来ました」など欺まん的なことをいう
業者だとわかれば居留守を使われるので、「裁判所のほうから来ました」などと嘘をつくことがあります。もちろん専任媒介契約を求める話の流れで、すぐに業者であることはバレてしまいます。債務者から「裁判所のほうから来たといったのに」と詰問されると、「方角的には裁判所がある北のほうからやって来たので嘘ではない」などと強弁します。
③ 水道を止める
②と同じく、居留守を使う債務者を家から出すため、悪徳業者は水道の元栓を閉めることがあります。通常、水道の元栓は家の外にあります。悪徳業者は勝手に敷地内に侵入して元栓をひねり、水道を止めてしまうのです。
居留守を使っていた債務者も、水道が止まれば家の外に出てきて元栓を確認しようとします。そこを狙って話しかけるため、悪徳業者は不法侵入も辞さないのです。
④郵便物を盗む
悪徳業者の中には債務者宅に届いた郵便物を盗むものもいます。私の会社のように訪問によるアプローチはせず、ダイレクトメールで任意売却の案内を送る会社が多数あるためです。悪徳業者の多くは零細なので、しっかりとした内容のあるパンフレットなどを作ることができません。そのため債務者が他の選択肢を目にすることがないよう、債務者宅の郵便受けをあさり、配達された郵便物を盗んでいくのです。
同じ目的で、債務者宅の郵便受けに粘着テープを貼る悪徳業者もいます。新たな郵便物が届かないよう、投函口をふさいでしまうのです。
⑤ 表札を盗む
競売の申し立てがなされた債務者宅では、表札がなくなってしまうことがしばしばあります。同業者のアプローチを妨害する目的で、悪徳業者が盗むためです。表札がないと、後から来る他の業者は債務者宅を見つけにくくなります。目的のためなら手段を選ばない事業者が訪問系の任意売却専門会社には多数含まれているのです。
悪徳業者への依頼は貴重な時間のロスに…
アプローチ方法に問題があっても、依頼した仕事をしっかりとしてくれるなら、債務者にとって大きな不具合は発生しません。ところが悪徳業者には「依頼を放置する」という困った性癖があります。
ほとんどの悪徳業者は単独で事務所を開いているか、人を雇っていたとしても1人か2人という零細企業です。手がけられる業務には限界があるので、専任媒介契約をとったものの「儲けが少ない」と判断した依頼は放置してしまいます。
その際、「うちではやれない」という連絡を入れることもありません。債務者は任意売却を進めてくれているものだと考えて、ただ待つことになります。
任意売却において、時間はとても大切です。開札までというタイムリミットの中で、できるだけ早く結果を出す必要があるにもかかわらず、悪徳業者に依頼してしまった債務者はその時間を失ってしまうことになるのです。
そのあげく、ギリギリのタイミングで信頼できる専門業者に乗り換えたとしても、任意売却の成功率は大幅に下がってしまいます。競売になってしまい、債務者は大きな不利益を被るケースが多々見られます。
悪徳業者との契約は解除し、良心的な業者に乗り換えを
住宅ローン破綻はほとんどの人にとって初めての経験です。どの任意売却専門会社がよくて、どの会社が悪徳なのかを判断するのは簡単なことではありません。悪徳業者の中にも人当たりがよく、さも依頼人のことを真摯に考えているかのように対応するものもいます。
専任媒介契約を結んだ後しばらくして、「ほとんど活動してくれている気配がない」などと気づくことがほとんどです。悪徳業者とは契約しないことがまず大切ですが、契約してしまった場合には契約を解除する必要があります。後になって信頼できそうな任意売却専門会社が見つかったら、ためらうことなく乗り換えることで、しっかりとしたサポートを受けることができます。
先に契約を結んでいた悪徳業者は異議を申し立てたり、「違約金を支払え」などと要求してくることがありますが、応じる必要はありません。違約金は発生した損害の代償として支払うものです。なにも活動していない悪徳業者に損害はないため、たとえ裁判になったとしても請求が認められることはありません。
そもそも任意売却を必要とする債務者には財産がないので、資料をそろえて請求したところで、違約金を取れないことは悪徳業者も理解しています。依頼先を乗り換えても面倒なトラブルが起きることはないので、債務者は自身の利益を最優先すべきです。