そういったデータはさまざまな形で残るため、領収書のようにシュレッダーにかければおしまいというわけにはいきません。たとえばメールで情報をやりとりすれば、パソコンにデータが残ります。フリーメールを使えばサービス提供元のサーバーにデータが残りますから、アクセスするためのメールアドレスとパスワードさえわかれば、誰でもどこからでも見ることができます。
生前ならまだしも、死後にそういったデータを消すことはかなり困難です。しかもこういったデータは劣化しませんし、コピーをとるのも簡単です。
また最近では掲示板や動画サイトなど、世間一般が閲覧できるサイトに載せるのも容易です。悪意ある人の手に渡ってしまうと、際限なくコピーされ多くの人の目にさらされてしまう危険性があるのです。
「隠す必要がないもの」は、存在を遺言書に残す
デジタルデータの中には、隠しておきたいものとそうでないものがあります。たとえば家族が知っているネット銀行の残高や取引履歴、同じく存在を教えているブログや家族写真などのデータを置いているクラウドサービスなどは知られても大丈夫です。そういった情報はエンディングノートやパソコンのデスクトップなど、わかりやすい場所に置いて「いざという時は確認してほしい」と伝えておきます。
また、法的な効力はありませんが、遺言書の付言事項というメッセージ欄に記しておくのもいいでしょう。そうしておけば、データを探して家族がパソコンの中をいろいろと検索したあげく、社長にとって知られたくないデータに遭遇するという事態を予防することができます。
なお、デジタルデータの相続については、まだ法律的な整備が進んでいませんので、税務的に曖昧な面もあります。たとえば、個人が運営するサイトの中にはアフィリエイトなど広告収入などで大きな利益を上げているものもあります。
こういったサイトから得た収入も相続の評価が必要となるでしょう。ただ、実際の相続税額がどういったものになるのかはケースバイケースで判断されていますので、詳しくは税理士に相談するとよいでしょう。
ソフトなどで、ある程度のデータは消去可能だが?
一方、存在を隠したいデータについては、生前にかなり頑張って手配をしておく必要があります。デジタルデータは、データを消去してくれるソフトを導入することで、ある程度対応することが可能です。
たとえば、特定の状況になると指定されたファイルを消すよう設定しておけるソフトを利用するのもよいでしょう。一定期間使用がない場合には、隠したいデータを自動的に消してくれるというものです。
スマートフォンやクラウドサービスについても、同等なサービスがあるようです。その他、近年、死亡時のことを考慮した新しいサービスが少しずつ登場しています。利用を検討してみてもよいでしょう。
アカウントを無効化できれば、フリーメールを誰かに見られたり、写真などのデータにアクセスされたりすることもなくなります。また、死亡時にはデータを処分できる人にメールを送るよう顧問税理士などに依頼しておけば安心です。
故人のデジタルデータの完全消去は不可能に近い!?
ソフトや各事業者のサービスに頼るのもよいですが、確実性という面ではやはり少し不安が残ります。パソコンのハードディスクに入っているデータは、消したつもりでも特別な手順を踏むとかなり高い確率で復元できます。
完全に消去するには物理的に破壊しなければダメと言われており、もし遺族が本気でデータを見たいと考えるようだと、こういったソフトのもたらす安心感はそれほど高くありません。
実際に故人のパソコンデータの復旧をする事業者もいます。相続人がネットバンクのアカウントを知りたがって依頼するケースや、相続でもめた場合に遺言書の信頼性を検証するためにデータの復旧を依頼するケースなどがあるようです。
遺族がこういったサービスを利用すれば、データは簡単に復旧されてしまうでしょう。フリーメールなどは、妻にアカウントを探し当てられたら、メールの内容などを読まれてしまうことになります。