少なくとも400万円のメンテナンス費用が…
ここで一番伝えたいことは、家は建てて終わりではないということです。子どもを育てるように、あるいは木や花を育てるように、建ててからも愛情をもって接していける、「本当にいい家だね」と言える住まいにしなくてはならないのです。
永く暮らしていける家づくりで肝となるポイントは何か……住みはじめたあとの暮らし方や日々心がけたいメンテナンスなどの生活習慣、そして快適さを保つ維持管理のコツなどをここではご紹介します。
海外では有名なことわざがあります。「親が頑丈な家を建てたら、子どもはいい家具を揃え、孫はヨットを買う」ここには失敗しない家づくりのヒントが隠されています。50年、100年と長持ちする家を建てることができれば、子どもや孫は家に対する不安がなくなり、豊かな暮らしを純粋に楽しむことができると教えているのです。
それに引き替え、日本の住まいの現状はどんなものでしょうか。
日本は終戦後の資材不足で粗末な住宅が建てられた経緯もありますが、高度成長期やバブル期を経験してスクラップ&ビルドや使い捨て文化が一般的になってきました。
生涯で一番高額な出費である家づくりでもその風潮は同じです。日本における住まいの寿命は30年といわれています。30年持てばいい、という意見もあるでしょうが、諸外国の住宅の寿命を知るとその差に暗澹たる思いになります。たとえばドイツは79年ですし、フランスは86年、アメリカになると100年の大台を超えて103年、そしてイギリスに至っては141年というのですから、住宅に対する文化の違いのようなものを感じずにはいられません。
皆さんもよく耳にされるでしょうが、アメリカ人やイギリス人は家のメンテナンスを自分ですることが日常の習慣となっています。義務というよりも趣味の範疇に入るかもしれません。それは長年の間に身についたDNAであり、メンテナンスや修繕をすることで家は長持ちすることが分かっているからです。
「使い捨て文化の日本。そこから脱却した家づくりを」
家づくりをスタートさせたとき、メンテナンスや修繕のことを本当に考えている人はどだけいるでしょう。「建築会社が定期的に点検に来てくれるから安心」とお考えの方もいるでしょうが、30年後、50年後も無料で点検・修理してくれるでしょうか。
あるいは、「資金計画やローンの返済、税金や保険を含めたライフプランをきちんと立てているから大丈夫」と言われる方が、ある試算で、築後10年目に120万円のメンテナンス費用が発生し、築後30年間では総額は400~800万円にものぼるという数値をご覧になっても「大丈夫」と言えるでしょうか。
これが、長期継続保証のカラクリなのです。10年ごとに会社の指定したメンテナンスを有償で受けた場合のみ、10年間保証が継続されるというもので、いわば強制されたリフォームを確約させられることを意味します。
メンテナンス・修理の主要目的は、見てくれが悪いから直したいというのではなく、雨漏りなどで建物が腐食し、安心して暮らせなくなるリスクを減らすことです。その住宅の規模や使われている素材などによって多少差異はありますが、10年から15年を過ぎると外壁や屋根などのメンテナンスが必要になってきます。
では、具体的にどのような箇所に幾らぐらいのメンテナンス・修理費用がかかるかを見ていきましょう。
外壁については、平均的な30坪の戸建住宅の場合、標準的な外壁面積は約119m²で計算されますが、塗り替えだと約70~150万円、サイディングの張り替えが100~200万円と若干の幅をもって設定されています。加えてそれぞれに足場を組むことも必要で、相場は15~20万円がプラスされます。
通常メンテナンスは年に一度、サイディングの寿命は最長で30年ほどですから、その都度にこうした費用が必要ですが、その間に適正にシーリング工事が行われているかどうかで壁材の劣化に差が出ます。シーリングとはサイディングをつなぐコーキング(防水剤)のことですが、シーリング工事の費用は20~45万円が相場とされています。
コーキング材の寿命は7~10年ですので、小まめに劣化していないかをチェックすることが建物の寿命に大きく関わってきます。ただ昨今では改良も進み、高耐久なシーリングもあり、この場合は30年の寿命があります。
また、屋根のメンテナンスは定期的な塗り替えやコーキングが屋根材の劣化を未然に抑え、雨漏りなどを防いでくれます。これには25~60万円前後の費用がかかります。築年数が進み経年劣化により屋根下地まで直す葺き替えが必要な場合は150~280万円を見込んでおかねばなりません。バルコニーなども錆や腐食による落下が恐ろしいので塗り替えなどの対応が求められます。メンテナンス・修理は外回りだけでなく、家の内部でも必要になります。
その他、水回り設備も手入れを怠ると故障しやすくなります。給湯器、水栓、IH、食洗機、さらにエアコンなどの寿命は10年です。フローリングの床が傷んだりベコベコになったりして張り替える場合、6畳で10~20万円が相場です。床の張り替えは大掛かりになりますから、その機会を利用して、水回りや空調の配管、基礎周りのチェックも行うといいでしょう。
繰り返しになりますが、建てて終わりという安易な考えでは、大切なわが家を護ることはできないと肝に銘じ、あらかじめメンテナンス積み立て金などをライフプランに組み込んでおくことが賢明でしょう。目安は月1.5万円前後の積み立てですが、年ごとに100万円近いメンテナンス・修理費用が必要になってくることを思えば、今すぐ検討していただきたいことです。
屋根や外壁は、メンテナンス時に「一番お金がかかる」
家の寿命はメンテナンスで決まると言いましたが、全てに対して100%の予算を充当することはできません。「どの箇所を重点的にメンテナンスすれば、お金をできるだけかけずに家を長持ちさせられますか」という質問をもらうことがあります。私がそこでアドバイスするのは、「外壁・屋根にかける費用を抑えたら、かえって高くつきますよ」ということです。
1軒の家で圧倒的に外部に接する面積が大きいのが外壁と屋根であることはすでにお伝えしてきました。雨漏りなどによる躯体の腐食のリスクが大きいのも外壁・屋根だからです。
そもそも、屋根や外壁は外回りのメンテナンスの中で、一番お金がかかるものだといえます。
ここで、選択しなければいけないのが、「施工時にお金をかけてメンテナンス費を抑えるか」「施工時はコストを抑えてメンテナンス費をかけるか」という問題です。
例えば、天然石やレンガ、タイルは高額の部類に入りますが、つねに美しい表情を見せてくれることに加え、耐久性が高くて再塗装の必要もありません。経年劣化は変化であり、逆に味わいを深めるプラスの要素に働きます。住み続ける年数にもよりますが、長い目で見れば間違いなくコストに見合う部材といえます。サイディングも高耐久塗装の商品に高耐久なシーリングを選択すれば、いつまでも安心して暮らせる住まいとなります。
一方で安価なモルタル、吹き付け塗装を選べば、経年劣化とともに、汚れやひび割れができやすくなるので、10年単位でメンテナンスが必要というのが一般的な評価です。イニシャルコストで判断するか、長い目で見たときのメンテナンス費で考えるか、打ち合わせの段階でしっかり説明を聞くことが大切です。
また、屋根のメンテナンスも建物を長く快適に維持するための重要なポイントです。屋根は外壁よりも紫外線に長時間さらされていますし、雨や風のダメージを受けやすい箇所です。屋根の塗装はそうした外的な要因から保護する役割がありますが、その劣化が進行すると雨水が浸み込んで、下地が腐ってしまう危険性があります。10~15年を目途に屋根の塗装の塗り直しを計画するのは大切ですが、屋根材自体が劣化した場合は葺き替えを考える必要があります。
結論として言えるのは、汚れを放置しているとそれが当り前になり大きな欠損も見逃してしまう恐れがあるということ。普段から目を配り住まいの美観を保っていく自信のない方は、新築時に多少コストアップしても耐久性の高い部材を採用することが大切です。
長持ちする家かどうか…「1年目の冬」に全てが分かる
実はここまで住まいのメンテナンスのことをいろいろと説明してきましたが、どうしても言っておかねばならないことがあります。それは家づくりの根幹に関わる部分であり、メンテナンスのような対処療法では解決できない問題といえます。建ててしまった方には少々、ショッキングな内容ですが、覚悟してお読みください。
ズバリ言うと、暮らして最初の冬に結露する家はもう長く持たないということです。長持ちする家かどうかは、1年目で全て分かるということです。
どんなにメンテナンスを心がけても、建ててから迎える最初の冬に結露する家は、躯体の寿命はそれほど長く持たないのです。
「30年後も快適に住まう家づくり」を実現するためには、住まいの結露の問題をまず解決しておかねばならないと強く思っています。
私たちが手掛ける家づくりは、結露が及ぼす影響についてまだ注目されていない頃から、高気密・高断熱+計画換気による結露ゼロの住まいを目指してきました。
その出発点になったのは、冒頭でも述べましたが、海外の住宅の寿命に比較して、日本の住宅の寿命が極端に短いことへの疑問でした。そして、海外の住宅を視察して、どこに問題があるかが分かりました。それは結露だったのです。
日本では、よくこんな話を耳にします。
「日本のような高温多湿の国において結露は防ぐことができない」
これは、実は議論のすり替えなのです。実際日本でも冬は関東のように低温・低湿になる地方は多く、1年中高温・多湿ではありません。結露はその寒くカラカラに乾燥した時期に発生しているのです。結局結露は外的要因ではなく、室内の絶対的な温度不足と換気不足によって引き起こされているのです。それを外的要因にしているのは、私から見ると技術力が低いことを隠すための議論のすり替えに思えてなりません。繰り返しになりますが、外的な環境がいかなる状況でも、しっかりつくられた家では、結露は発生しません。
結露を起こす家は、年々、壁内部の木材が劣化し腐朽してしまい、結果的に30年程度で建て替えを余儀なくされるのです。
兼坂 成一
一級建築士