「憧れの地」に住みやすい家を建てたい
都心に注文住宅を建てるとなると、建築費用以上に大きな出費となるのが土地の購入費用です。この費用には無駄が含まれているケースがかなり多いので、購入前に注意が必要です。
都心に家を建てたい理由はそれぞれでしょう。例えば、
●徒歩や自転車で通勤、通学したい
●今便利に住んでいる賃貸住宅の近くに建てたい
●生まれ育った地域が都心だった
●23区内で家を建てるのが長年の夢だった
●住んでみたい憧れの街がある
などでしょうか。どれもよく理解できる理由です。
ただし、繰り返しますが都心の土地は非常に高額です。大人気の目黒区や渋谷区では坪単価500万円以上する土地も珍しくありません。30坪ならば土地代だけで1億5000万円にもなります。比較的リーズナブルな足立区や葛飾区でも、買い物などに便利な立地となると坪単価は100万円以上。30坪ならば3000万円です。
そんなに高い土地は買えない、でも都心の一戸建てがほしい。そう考えるからこそ皆さんはこの連載を読んでいるはずです。
ならばここで回答を出してしまいましょう。都心の土地でも「狭小地」「変形地」ならば圧倒的に格安で手に入れることは可能です。
狭小地とは、文字どおり狭い土地です。具体的には都心の場合は20坪以下といったところでしょう。このような狭い土地は、いくら交通の便がいい都心でも使い道が限られてしまうため、坪単価が安くなります。
変形地とは、例えば三角形や五角形など、四角形(整形地)以外の地形の土地です。よくあるケースとして、道路から細い土地でつながる旗ざお地も含まれます。これら変形地は整形地と比べて建物が建てづらかったり、住みやすい間取りが計画しにくいので、やはり坪単価が安くなりがちです。
この条件の土地は、一般的な土地よりも2割以上安く買えることが多々あります。それどころか2つの条件が重なれば、5割近く安くなることも珍しくありません。
例えば、相場で坪単価200万円の土地を30坪購入したとしたら6000万円です。それが「狭小地」+「変形地」で3割引きになったとしたら坪単価は140万円。20坪なら2800万円。3200万円も安くなります。これだけで建物一棟分以上の費用が浮いてしまいます。
「そんなに狭くて形の悪い土地にまともな家が建つのだろうか?」と思うかもしれません。そのために注文住宅とするのです。注文住宅ならば家族みんなの細かい意見を取り入れた家を建てることができます。
整形地だからといって高いお金を払うのは無駄というもの。たとえ狭くて形の悪い土地でも、憧れの地で住みやすい家が建てられるのであれば、これほど嬉しいことはないでしょう。
13坪あれば「3LDKの家」が建てられる
私がこれまでお付き合いさせていただいたお客様のほとんどは、土地探しで本当に苦労しています。その理由をお聞きすると多くの人が「家が建てられる土地の広さを勘違いしていた」と答えます。特に地方に実家がある場合にこう答えるケースが多いようです。
そこで私が伝えたいのは「皆さんが思っているほど広くない土地でも、家族3人から4人の家は建てられる」ということです。都心で土地を探す際は、まずここを理解していただきたいと思います。
具体的には43㎡、約13坪あれば3LDKの家は建てられます。
この話をすると「ありえない!」「全部の部屋が4畳半以下でしょう?」と言われます。そんなことはありません。LDKで12畳、そのほかの部屋でも5~6畳を確保することも可能です。延べ床面積も3階建てで80㎡、約24坪あるので今お住まいのアパート、マンションよりも広いのではないでしょうか。
「43㎡の土地が手に入れば家が建つ」。そう思えば視野が広がるはずです。あとは「予算」と「地域」さえ決まれば行動開始です。
そこで注意したいのは「土地に裏情報はない」ということです。これだけインターネットが発達した世の中で、誰も知らない土地情報を入手できるのはほんの一握りのプロだけです。さらにそのような土地は、大抵規模が大きく、プロ同士で取引するので一般の人が手を出すことはできません。特に都心の土地はその傾向が顕著です。やはり、土地は地道に探すしかないと心得るべきでしょう。
とはいえ、真剣に探していれば見つかるものです。具体的には、情報が集まりやすい大手と地域密着型の不動産会社に相談します。すでに家を建てた知り合いに不動産会社を紹介してもらってもいいでしょう。その際3社くらいまでが無難です。それ以上依頼しても、土地情報のほとんどは業界内で共有されているので意味がありません。
土地探しの期間は、最低でも3カ月から半年は見ておく必要があります。この期間を乗り越えられない人は建売住宅へ流れてしまいます。それでははじめに夢見た「安くて満足できる家」は実現できません。数カ月は土地探しを楽しむくらいの気持ちが必要です。
見た目では分からない「土地の落とし穴」とは?
「予算」「地域」「広さ」。すべての条件を満たした土地が見つかっても即決してはいけません。そこには見た目では分からない落とし穴が潜んでいるかもしれないからです。その具体例を紹介しましょう。
高低差がある土地
割安な変形地の一つに高低差がある土地があります。具体的には、前面道路から上がった土地や前後の土地とひな壇でつながる土地などです。
このような土地に家を建てる場合は、道路や隣地との境界線上に擁壁をつくらなければならないケースがあります。その費用は数百万円から一千万円になることもあります。高低差がある土地を見つけた際は、その費用も見積りしてから契約するかどうかを決めるべきです。
高さ制限が厳しい土地
家はお金さえ払えば自由に建てられる、というわけではありません。建築基準法などによって、周辺の環境などに考慮することが求められるからです。
このような決まり事のなかで、比較的多く問題になるのが北側斜線制限や道路斜線制限などの高さ制限です。これらは北側の土地や隣接する道路の日当たりなどを確保するために、建物の高さを制限するものです。この制限によっては3階建てが建てられない場合があります。
特に注意したいのは角地です。角地は2方向の道路から制限を受けます。その結果、角地でない土地よりも低くて狭い家しか建てられないのです。それなのに角地は人気なので割高になりがちです。確実に希望する間取りが実現できることが分かっていない限り、手を出さないようにしましょう。
高さ制限を確認する方法は、まず希望する土地のまわりを見渡してみましょう。隣近所の建物がすべて2階建てなら、かなりの確率で3階建て不可です。また、不動産会社に3階建てが建てられるか聞けば確実に分かります。
私道に面している土地
建築基準法では、住宅を建てる土地は公道に2m以上の幅で面していなければならないと定められています。火災などがあった際に消防車や救急車などが入っていけるようにするためです。
ただし、公道に面していない入り組んだ地形の土地であっても、個人の持ち物である私道で公道とつなげることによって建築が許可されます。
都心ではこのような私道に面する土地が多いので要注意です。私道は複数の周辺住民の持ち物になっているケースが多々あります。そこを通らないと工事や日常生活ができないという土地を購入し、住宅を建てる場合は、私道の所有者全員から道路通行掘削承諾書などを取得する必要があります。
この承諾書に捺印してもらう作業は、一般的には売主や土地の仲介会社が引き受けます。しかしながら所有者にもいろいろな人がいるので、ここでもめることもあり得ます。きちんと承諾書をもらえたことを確認して売買契約を締結しましょう。
周辺住民のモラルは「ゴミ置き場」を見れば分かる!?
境界杭がない土地
境界杭とは隣の土地との境目を記すものです。これがないのは隣地とのトラブルの元。工事を開始する前に隣地の人の立会いのもとで測量を行い、杭を設置する必要があります。
極端に隣の家が近い土地
民法上では、家は隣の土地から50㎝以上離さないと建てられないことになっています。しかし、建物が密集した都心では、これが守られていないことも少なからずあります。特に戦後すぐに建てられたような建物は、50㎝どころか境界線上に建築されているものさえあります。
このような建物の隣の土地に家を建てるのは、トラブルに発展する可能性があります。上・下水道の配管やエアコンの室外機がこちらの土地にはみ出しているといったケースが往往にしてあり、撤去を求めるともめることがあるからです。
もちろん、話し合いによって穏便に済ますことも不可能ではありません。ただし、事前にその話し合いを乗り切る心構えが必要です。
地中にガラなどが埋まっている土地
建物の解体工事をする際に出る廃材などをガラといいます。もともと建物が建っていた住宅地などの更地を買う際は、このガラに注意が必要です。
例えば、基礎を支える杭など大きなものが出てきた場合の撤去費用は、百万円を超えることも珍しくありません。
とはいえ、一般的にはガラの撤去費用は売主に請求できます。不動産会社から買った場合は購入後2年後まで、一般の人から買った場合は購入から3カ月後まで請求可能です。
周辺住民のモラルが低い土地
日々生活するなかでご近所にモラルが低い人が住んでいると大変なストレスを感じます。夜中に大きな音を出す、ゴミの分別がなっていない、すぐに怒り出す・・・こういった問題がある人が近くに住んでいて、平気でいられる人は少ないはずです。
このようなモラルが低い人の有無を確認するには、まずゴミ置き場を見てみましょう。ゴミの日ではないのに出されていたり、汚れていれば誰か個人、または地域全体のモラルが低い可能性があります。
さらに、希望する土地の両隣のチャイムを押して地域の住み心地を聞いてみる、という手もあります。そのついでにモラルに関しても質問するのです。
抵抗感があるかもしれませんが、最初に隣の土地を買うかもしれないと伝えれば、将来のお隣さんに対して雑な態度はとれないはずです。もし、冷たい対応ならそのお宅とは付き合いづらいかもしれない、といった判断材料になります。
以上のように土地を買う際の注意点はたくさんあります。なかにはプロでも見落としてしまいがちな細かいことがあるのも事実です。素人がすべてを見抜くのは、かなりハードルが高いでしょう。
そこでより確実な対策としては、やはり信頼できる不動産会社や住宅会社に土地をチェックしてもらう、という方法が無難でしょう。会社によっては、数十項目に及ぶチェックリストを使って営業担当、設計担当、施工担当の三重チェックを行っているといったところもあります。
奧本 健二
フォーライフ株式会社 代表取締役社長