病院好きは要注意! 「心配だから一応検査」が逆効果のワケ

新型コロナウイルスの猛威は衰えを知らず、第2波、第3波の到来も危惧される状況が続く。この時勢、パンデミック客船「ダイヤモンド・プリンセス」の実態を告発した神戸大学医学部附属病院感染症内科・岩田健太郎教授が提言する「病の存在」は、まさに今議論されるべき事柄と言えるだろう。本連載は、岩田健太郎氏の著書『感染症は実在しない』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋した原稿です。

検査のし過ぎは、「冤罪」の元

検査とは、みなさんが信じているほどリジッドに強固に確実な存在ではないのです。どうして、検査はそんなに確実ではないのでしょうか。

 

それは、どんなに優秀な、現代医学の粋を集めた検査でも、完全ではないからです。つまり、どんなに優れた検査でも病気を見逃すリスクをゼロにはできませんし、病気でない人を間違って病気と判断してしまう、言ってみればえん罪みたいな誤謬も起きるからです。検査は二重に間違えます。病気でない人を病気とレッテル付けし、病気の人を見逃して健康な人と認識します。この間違いを完全に回避することは不可能なのです。

 

長崎大学の池田正行氏は、誤謬やリスクがゼロであるはずだ、そうであるに違いない、という確信がもたらす弊害を「ゼロリスク症候群」と名づけて警鐘を鳴らしました。残念ながら、リスクのない事物はこの世に存在しません。どんなに優れたドライバーでも交通事故のリスクをゼロにすることはできません。だから、交通事故が起きるリスクを想定してシートベルトやエアバッグが装着されているのです。同じように、副作用が皆無の薬や予防接種も存在しませんし、確実に100%成功する手術も存在しません。あり得ないもの、ゼロリスクを希求しても、そこにあるのは虚しい絶望・虚無感だけです。リスクはあるもの、避けられないものと腹をくくったほうが、より健全に生きていけるように思います。

 

検査についても同様で、絶対に間違いを犯さない検査はゼロです。見逃しをゼロにしたり、病人という間違ったレッテルを貼ったりするリスクは、どんなにがんばっても存在するのです。腹をくくって、病院の検査はそういうものだ、と理解するよりほかはないのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

病気を見逃さない能力を専門用語で感度と言います。えん罪を少なくする能力を専門用語で特異度と言います。感度100%、特異度100%の検査こそが完璧に病気を病気と認識できる理想的な検査なのですが、残念ながらそのような検査は存在しません。ところで、ある検査の感度を高めようと思えば、その検査の閾値、つまり、検査を異常とする基準値を下げていけばいいのです。ちょうど試験の合格者を増やすには合格点を下げていけばいいのと同様です。

 

しかし、感度を上げて(検査の基準値を引き下げて)やると、その分、特異度は悪くなっていきます。ちょうど、優秀な人間を逃すまいと合格点を下げていったら、とんでもないあんぽんたんが合格者になってしまうのと同じです。ある検査で、感度と特異度を同時に上げるのは不可能で、どちらかを上げるとどちらかが犠牲になるのです。完璧な検査というのがいかに存在しがたいか、という理由の1つは、感度と特異度はトレードオフの関係にある、という事実にあります。あちらを立てればこちらが立たないのです。

 

みなさんの中にも、「いちおう心配だから検査してください」と言って病院にいらっしゃる方がいるかもしれません。なんだかよくわからないけれど、病気があるかどうか、心配。検査をすれば、この悩みが解消するのではないか、と。でも、このやり方は必ずしも安心をもたらさないのです。

 

どうしてかというと、たとえ検査が正常でも、それは病気がない保証にはならないからです。そして逆に、病気がないのに検査をしすぎて、間違ってえん罪、病気のレッテルを貼られてしまうこともあるのです。病気のレッテルを貼られてしまうと、本来はいらない薬や手術を受けなくてはならなくなるかもしれません。薬も手術もリスクゼロの、無害な存在ではありません。場合によっては患者さんにとって有害になることすらあります。副作用、合併症が起きるかもしれないのです。

神戸大学病院感染症内科 教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。著書に『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)、『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(光文社新書)など多数。

著者紹介

連載「コロナは実在するのか」…感染症の第一人者が語る「病の存在論」

感染症は実在しない

感染症は実在しない

岩田 健太郎

集英社インターナショナル

インフルエンザは実在しない!生活習慣病も、がんも実在しない!新型コロナウイルスに汚染されたクルーズ船の実態を告発した、感染症学の第一人者が語る「病の存在論」。検査やデータにこだわるがあまり、人を治すことを忘れてし…

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