本記事は、2017年6月23日刊行の書籍『人生を破滅に導く「介護破産」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。介護保険サービスの金額は、社会福祉法人サンライフの金額を参考に記載しています。実際の金額は利用する施設などへお問い合わせください。本来、施設の種類によって「入居」「入所」と書き分けるべきですが、文章の分かりやすさに配慮し、すべて「入所」に統一しています。

想定外だった親の介護で追い詰められる家族

日本はすでに世界のどの国も経験したことがない超高齢社会となっており、国民の4人に1人が65歳以上の高齢者です。高齢者の増加に伴って要介護(要支援)認定者数も増え続け、2016年4月末で約608万人―これは調査をはじめた2000年度のおよそ3倍にあたる数字です。要介護(要支援)者の増加は今後も止まらず、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)になる2025年には667万人になると予測されています(厚生労働省社会保障審議会)。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

核家族化が進む中で、家族が高齢者の介護をする負担は計り知れません。下のグラフが示す通り、介護が必要になった場合、主な介護者としては配偶者が26.2%、子が21.8%、子の配偶者が11.2%を占めています。また、介護者を年齢別に見ると、働き盛りの40~50代が男女ともに3割にのぼります。

 

[図表1]第1号被保険者(65歳以上)の要介護度別認定者数の推移

[図表2]主な介護者の続柄

 

介護といえば多くは女性が担っていたものでしたが、近年は男性が介護に専念せざるを得ないケースが増え、その中には管理職として重責を担っている会社員も少なくありません。また、少子化で兄弟姉妹が減り、未婚・離婚のため配偶者がいなかったりして、たったひとりで親の介護を引き受けざるを得ない中高年も増えています。

 

とくに、仕事を持つ子世帯にとって親の介護をどうするかは深刻な問題です。まだ介護を担う必要がない子世帯であっても、「うちの親もいつかは……」「仕事を辞めるしかないのか?」「お金はどれくらい用意したらいいのか?」など、いずれ降りかかってくる親の介護という大問題に、不安や悩みの種が尽きることはありません。

 

昔は「子どもが親の面倒を見るのは当たり前」といわれていました。親のために、自宅で身を粉にして介護漬けの日々を送る状況を、美談とする風潮があったのです。しかし、それは介護の平均期間がまだ短かった時代のことです。

 

「平成28年版高齢社会白書」(内閣府)によると、平均寿命と健康寿命(健康上の問題がない状態で日常生活を送る期間)の差は2013年時点で男性が9.02年、女性が12.40年となっています。医療技術の進歩により日本人の平均寿命は年々延びていますが、高齢になるほどさまざまな病気にかかる可能性も高くなるため、平均寿命が長くなるとともに不健康な期間も延びているのです。

 

[図表3]介護期間の目安

 

平均寿命と健康寿命の差は、介護期間の大まかな目安と考えることができます。つまり、平均的な介護期間は10年前後となりますが、個人差が大きいため、中には20年30年といった長期間、介護が続くケースもあります。親の介護のために仕事を辞め、自分の人生を犠牲にしなければならない状況がそれだけ続くとしたら、その精神的・肉体的な負担は計り知れません。

親思いの子どもほど陥る介護の泥沼

2015年1月、91歳の母親とその介護をしていた64歳の息子Tさんが、遺体で発見されるという痛ましい事件がありました。重症の肝炎を発症したTさんが発作を起こしてそのまま亡くなり、身の回りの世話をすべて息子に任せていた母親も、後を追うように低体温症で亡くなったのです。

 

Tさんは地元の高校を卒業した後、県内の工場で正社員として働いていましたが、40代の時に母親の介護のため時短勤務ができる仕事に転職。亡くなる8年前には、介護との両立が難しくなってその仕事も辞めざるを得ませんでした。

 

母親の年金と、亡き父親の軍人恩給などを合わせた月額8万円では最低限の生活さえ難しく、母親の持病の医療費もかさむことから、貯金を切り崩してしのぐようになりました。費用のかかる介護サービスも利用できなくなり、ひとりで介護を背負うしかなくなったのです。

 

節約に節約を重ねる中で、Tさん自身は体調を崩しても病院で診察を受けることはありませんでした。周囲に明るく振る舞いながら、母親に寄り添って献身的に介護をしていたTさんですが、亡くなる数日前には「しんどい」と座り込むほどに体調を崩し、最後には発作を起こしてこの世を去ってしまったのです―。

 

この事例のように、親子の仲がよくて子どもの責任感が強い場合、泥沼の介護生活の末に親子共倒れ状態に陥ってしまう傾向があります。責任感が強いゆえに周囲にSOSを発することなく、ひとりで介護をすべて抱え込んだまま破局に至ってしまうのです。

 

Tさんほど献身的な介護でなくても、在宅介護はとてもストレスがたまるものです。食事や排せつ、入浴など絶え間ない世話の連続で、24時間ほとんど休む時がありません。しかも、手のかかる期間がはっきりしている育児や一時的な病気、けがなどとは違い、いつ終わりが来るか分からないのです。

 

「平成28年版高齢社会白書」によると、家庭の中で介護を主に担っている人が介護に費やす時間は、要支援1から要介護2までは「必要な時に手をかす程度」が最多ですが、要介護3以上では「ほとんど終日」が最多となり、要介護4以上では半数以上が終日介護を行っています。

 

[図表4]同居している主な介護者の介護時間(要介護者等の要介護度別)

 

また、施設に預けるという選択肢については、「お金がないから」「空きがないから」「世間体が悪いから」といった理由で否定的な人が未だに多いのが現状です。密室で一対一の介護を延々と続けていたら、いつしか「介護うつ」になったり高齢者虐待につながったりする危険性があります。また、頑張りすぎた末に、Tさんのように介護中の親より先に子どものほうが倒れて亡くなるケースも珍しくありません。

 

少し古いデータですが、2005年に在宅介護者8500人に対して行われた「介護者の健康実態に関するアンケート」によると、在宅介護者の4人に1人が「介護うつ」を発症していました。「死にたいと思うことがある」と回答した在宅介護者も、50歳前後で2割、65歳以上の「老老介護」では3割以上という高い割合でした。

 

親の介護で心身をすり減らし、破産寸前の状態に追い込まれ、命さえ落としてしまう事例も枚挙にいとまがありません。これから先、介護を必要とする高齢者がさらに増えていく中で、介護を原因とする貧困によって「親子共倒れ」状態に陥るケースは決して他人事ではないのです。

 

 

杢野 暉尚

社会福祉法人サンライフ/サン・ビジョン 理事・最高顧問

 

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