経営者として収入も多かった兄は、常々「財産はいらない」と言っていた。しかし、東日本大震災で人生設計が大きく崩れた結果、姉が亡くなったときに突如「財産を半分もらう権利がある」と言いだし、「争族」に発展――。 ※本記事は、一般社団法人相続終活専門協会代表理事・江幡吉昭氏の書籍 『プロが教える  相続でモメないための本』(アスコム)より一部を抜粋したものです。

資産の7割以上を失った長男。姉の葬式でいきなり…

引退後、雄一郎はこの売却益を元手に資産運用に乗り出す。毎年必ず配当を見込める電力会社の株を知人から勧められ、東京電力株に全額を投資した。最初の頃は計画どおり配当金が手に入り、リタイア生活も悪くないと思われた。

 

しかし運用開始からわずか1年で悲劇が訪れる。2011年3月11日14時46分、東日本大震災発生――。東京電力、福島第1原子力発電所が被災し、株価は大暴落した。売却したくてもできないままストップ安を続け、あっという間に資産の7割以上が目減りしてしまった。これで雄一郎の老後の算段はすべて狂ってしまう。

 

そして翌2012年、姉の千恵子が他界したのだった。東日本大震災の影響で資産を失った雄一郎は、千恵子の葬儀が終わるや否や、誠二を呼び出した。

 

「姉ちゃんの遺言を見せろよ」「なに言ってんだよ、こんなときに」

 

「葬儀も終わったんだし、相続税のこともあるから早く遺産分割した方がいいだろ」「ちょっと待てよ。だいたい兄ちゃんは遺産はいらないって言ったじゃないか」「いいから、早く遺言を見せろよ」

 

「どこにあるのかわからないよ。これから探すんだから」

 

翌日から誠二は、雄一郎に急かされるまま自宅を隅々まで探したが、けっきょく遺言を見つけることはできなかった。遺言がないことがわかった雄一郎は、自分が法定相続人であると主張しはじめ、冒頭の「争族」へとつながった次第である――。

 

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■兄弟姉妹には遺留分がない

 

このケースは、お姉さまが遺言を用意しておけば誠二さんにすべての財産を渡すことができたはずです。なぜなら、雄一郎さんに遺留分はないからです。

 

遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められる、最低限の遺産取得分のことです。しかし、遺留分は兄弟姉妹間の相続には適用されないので、雄一郎さんには遺留分を払う必要はありませんでした。

 

ところが、この事例では遺言が存在しません。遺言がない場合は、兄弟にも相続の権利が発生します。雄一郎さんは、東日本大震災で虎の子の老後資金を失い生活に困っていたため、千恵子さんの遺産に目を付けていたのです。

次ページ遺産の行方は…?兄弟が迎えた「最悪すぎる結末」
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江幡 吉昭

アスコム

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