住宅業界のクレームの多くはいわゆる「感情クレーム」
あるアンケート調査では、注文住宅を建てた実に多くの人が「家づくりを失敗したと思っている」「家づくりに何らかの後悔を感じている」と回答しています。残念なことに、住宅業界は消費者センターなどへの苦情報告や照会、問い合わせが多い、最大の「クレーム産業」と言われています。
そのクレームの多くが、営業マンの対応や施工への不信感からくるいわゆる感情クレームです。悪意のあるクレーマーと呼ばれる人はごくわずかで、「こんなはずではなかった」という、やむにやまれぬ想いが、このアンケート調査の結果に凝縮されているように思います。
感情クレームは、もとをただせば「言った、言わない」「聞いていない」「知らなかった」に起因します。一度不信感を抱いた相手に対しては、ささいな質問もしにくくなり、疎遠になることもあれば、言い方一つがひっかかり、「また言いくるめられてしまうのではないか」「何か隠しているのではないか…」と疑心暗鬼になってしまうのは致し方ないことです。
いちばん重要なことは、これらのクレームはすべて契約書を取り交わした後の話だということです。家づくりのパートナーとなる住宅会社選びを誤らなければ、手抜き工事に気を病むことも、豹変した営業マンに泣かされることも、クレーマー呼ばわりされることもないのです。
大手メーカーの注文住宅は「フルオーダー」ではない!?
本記事では、そうならないためのさまざまな知識と知恵をお教えしたいと思っていますが、まずは基本中の基本について確認しておきたいと思います。それは注文住宅と謳われているものの多く、特に大手のハウスメーカーの謳う注文住宅は、フルオーダーではなく、セミオーダーの注文住宅であるという点です。
セミオーダーとフルオーダーでは、内容が大きく違います。セミオーダーの場合は、いくつかのパターン=フォーマットが用意されていて、加えて色や一部の部材、設備などで各種オプションが準備されています。そのオプションの中から気に入ったものに変更ができるわけですが、それ以外のものを選ぼうとすると、たとえ変更可能であったとしても、金額が大きくはね上がってしまいます。つまりは、建売り住宅とは言わないまでも、注文住宅というよりは、いくらか選択の幅のある既成住宅なのです。
まず、その違いを理解しておかないと、絶対に満足する結果にはなりません。「こんなに選択肢の幅がないのか」と契約後に気がついて、後悔することになります。もちろん、セミオーダーという方法を否定するものではありません。それも一つの選択肢です。ただ問題なのは、担当営業マンがそうした誤解を積極的に解消しようとはしないということです。
最初にはっきりと申し上げておきます。フルオーダーの注文住宅を扱っている大手のハウスメーカーは皆無だと思ってください。そのことを前提として、セミオーダーという注文住宅の現場、そして注文住宅を謳う住宅会社を中心に、その舞台裏を覗いてみたいと思います。
「100軒以上の建売り住宅を見学したものの…」
注文住宅の裏側を覗く前に、もう一つお話ししておきたいことがあります。
それは、「注文住宅は高嶺の花ではないか?」というもっともな疑問に対する答えです。注文住宅は千差万別で、どんなに高価な建物も当然想定されます。しかし、私どもが施工しているほとんどの注文住宅は、決して手の届かないような高価なものではありません。
たとえば、「一戸建てに住みたいが、注文住宅は無理」と、100軒以上の建売り住宅を見学したものの、思い描いた家が見つからない。すべて、相応の妥協を必要とするものだと気がつき、私どもを訪ねてきてくれたお客様も数多くいます。そうしたお客様の中にも、建売り住宅の相場観内で思い描いたコンセプトの注文住宅を自分のものにされた方が少なくありません。
ある方が言われていた言葉が印象的でした。それは、「建売り住宅というのは万人受けするように作らないといけないから、特に目に見える部分、設備や外観はある程度見栄えのいいものにしないといけない。だけど、たとえば自分たちはお風呂にはこだわりたいけど、キッチンにはそこまでの思い入れはない。そうしたこだわりのあるなしでメリハリをつければ、十分に建売り住宅の相場観の中で気に入った家が建てられる」というものでした。
もちろん、一事が万事、そううまくいくとは限りません。注文住宅ですから、確かにお金を掛けようと思えば、いくらでも掛けられます。しかし、この方のように、こだわるところにメリハリをつければ、建売り住宅よりはお金が掛かるとしても、その差は、それほど大きなものにはなりません。その差をどう考え、捉えるかということだと思います。
家づくりのプロセスでは「しっかり悩む」ことが重要
最近、お客様に言うことですが、「住宅会社はこの世に本当にたくさんあります。その中で1社しか選べないのが家づくりです。建て終わるまでのコンペができれば、どんなにいいか知れませんが、残念ながらそれは無理です。コンペが出来るのは契約まで。さらに、その1社に決めても、一つの敷地に対して、間取りプランは限りなくあります。それも、1パターンでしか建てることができません」。
だから、「他所の会社だったらどうだったのだろうか」「他の間取りのほうがよかったのではないだろうか」などと後で思っても、それはある程度、仕方がないことです。しかし、自信をもって言えることは、私どもで家づくりをされた方にはそういう思いを抱いている方はまずいないということです。なぜかと言えば、家づくりのプロセスでしっかりと悩んでいただくからです。時間をかけて、悩んで悩んで行き着いた結果だから、納得できるのです。
それを、打ち合わせ3回で決めてくださいとか、1日で全部の設備を決めさせられるなどということでは、納得いくはずがありません。「プロの言うことに従っていれば失敗はない」などということは断じてありません。これは、注文住宅でしか味わえない価値観ですから、その価値観を貫ける会社をぜひ選んでいただきたいと思います。
「家」は失敗の出来ない買い物
「家」は、失敗の出来ない買い物です。注文住宅であれ、建売り住宅であれ、分譲のマンションであれ、いずれにしても決して安い買い物ではありません。契約をして、建物などの引渡しを受けて、後から「しまった!」と思っても、簡単に「やり直せばいい」というわけにはいきません。工務店を営む私でさえ、昔買ってしまった分譲マンションが足かせになって、理想の一戸建てを建てるのに相当の年月を費やしてしまいました。
そうした人生を左右する買い物ですから、信頼出来る住宅会社や大工に任せるだけではなく、最初から最後まで、彼らと一緒になって家づくりをするべきなのだと思います。もちろん、実際に現場で手を動かし家を建てていくのは職人ですが、主体はあくまでも施主ですし、施主自らが求める理想の家を建てるため、私たちはその想いや目的などを形にしていく手伝いをしているはずなのです。
そのために私たち建築家は、当然の話として、施主であるお客様の方を向いて、何を求め、どのような生活をしたいと思っているのか、どのような問題を解決したいと思っているのかを聞き、見極め、そしてそこにある課題を解決するために頭と手を動かしていく必要があります。
私利私欲に走り、施主を見ていない住宅会社も…
常に私たちの目線は施主を見ていなければならないのです。ところが、先ほども述べたように下請け時代の私たちはそうではありませんでした。
今、私たちに家づくりを依頼しているお客様も、当時、ハウスメーカーに依頼していたお客様も、家づくりに懸ける想いは同じだったのだろうと思います。簡単にやり直しは出来ないという事情も同じだったはずです。しかし、私たちは、お客様の方を向いてはいませんでした。自分たちが食べていけるように、とにかく一つでも多くの現場がほしいとだけ考えていたのです。
本当に恥ずかしい話ですが、最初は自分で釘を叩いて始めた仕事であったはずなのに、いつしか経営者になり、ハウスメーカー向けの営業マンになっていて、数をさばくことだけが大事だと思うようになっていました。私たちのお客様はいつしかハウスメーカーとなり、本当のお客様である施主には正直関心を持っていなかったのです。
もちろん、すべての住宅会社が同じではなかったと思います。ましてや今は景気が長らく低迷している時期ですから、ハウスメーカーのスタンスも一見変わってきています。昔よりも施主の方を向いていることは間違いないでしょうが、問題はその向き方です。地域密着の工務店などの方法も含めてさまざまに取り入れていますが、その目的は一にも二にも契約のためです。そのために、そのやり方はますます巧妙になってきているとさえ言えます。その点については、後述します。
施主の目的と住宅メーカーの目的には大きな乖離が・・・
施工中、お客様が現場に来ることがあります。ところが、工務店側はそれを嬉しく思っていません。来られると”やっかいだ”としか思っていません。完成してから見てほしい。途中段階を見てほしくない。それは、社長から現場監督、そして職人まで皆同じ気持ちだったと思います。気持ちがそうであれば、当然、現場はそうした空気を発します。なぜそうなのか。施主とは関わりたくなかったのです。
つまり、それは「建てておしまい」という希薄な関係でした。下請け当時、私自身も3分の1のお客様とは最初から最後まで一度も会ったことがなかったほどです。それでは当然、関係づくりは始まりません。今にして思えば、本当に何も残らない、非常に虚しい仕事であったわけですが、当時はその方が面倒がなくていいとすら感じていたのです。
もちろん、たとえ私たち工務店のスタンスがそうであっても、ハウスメーカーがしっかりとお客様の方を向いていれば、問題はないはずです。ところが、ハウスメーカーもそうではありませんでした。
ハウスメーカーは住宅業界の中にあって、建築会社ではなく、販売会社の位置づけです。ですからハウスメーカーにとって重要なのは工務店以上に数であり、売上げであり、決算数字であるわけです。売る、契約を取ることが目的です。そのために、当然すべての仕組みや慣習は契約を取るために出来上がっています。
しかし、もちろんお客様は契約のために「家」を建てるわけではありません。つまり、ハウスメーカーやその下請け工務店の目的と、お客様=施主の目的は全く違うところにあるのです。
設備を少しいじっただけで多額の追加料金が発生!?
繰り返しますが、ハウスメーカーが求めるのは数であり、効率であり、利益です。そのため、お客様の目的や課題に踏み込めば踏み込むほど、効率は悪くなり、結果、利益や数も減ってしまうかもしれません。
組織が大きくなればなるほど、一般的には小回りが利かなくなります。個々のお客様の目的はそれぞれ違うわけですから、その一つひとつに合わせることは難しくなります。会社の用意した枠にはめて、マニュアル通りに動いてもらわなくてはなりません。そこでもてはやされるキーワードは、”最大公約数”です。
その結果、用意されているのは、注文住宅とはいっても、それは名ばかりのセミオーダー、あるいはイージーオーダーの家づくりです。家のコンセプトやデザイン、間取りや設備も、何パターンかに決められていて、それぞれの組み合わせを選んでいきます。設備を少しいじろうとするだけでも、多額の追加料金が発生するケースも少なくありません。
もちろん、仕上がりが見える、ブランドの安心感がある、値段もある範囲で決まっているわけですから、間取りや設備のパターンが気に入り納得出来るのであれば、それはそれで悪くはない買い物です。しかし、現実は多くの妥協が生まれる場合が多いのです。その結果クレームにつながることもあります。大金を使って満足していないのでは、哀しいだけです。
いずれにしても、私たちも環境に慣れきって、トラブルにならないように、お客様から遠のいていたのです。何か違和感を持ったとしても、「この業界はそんなものだ」と達観するしかなかったのです。
私は、そうした感覚で家づくりを11年間もやってきてしまいました。300棟以上の住宅を建ててきました。大きな間違いであったと感じていますし、罪ですらあったと後悔しています。
ハウスメーカーの多くは「知識のない素人」が大好き
住宅業界の多くの会社は、専門的な知識や、自分たちにとって都合の悪いことをなるべく知らない素人が大好きです。お客様を契約までは主人公と位置づけ、全面的に味方を演じます。時間をかけて検討をしているうちに知識が豊富になり、注文が多くなったり、競合他社の情報に心が迷わないうちに、なるべく時間をかけずに契約してもらおうと、あの手この手で仕掛けてきます。
個人情報の取り扱いが問題になったことやネット上での口コミの影響もあって、一時期盛んに行われた住宅会社の営業マンからの電話や訪問攻撃は下火になりました。また、住宅展示場に足を運んだり住宅会社と直接コンタクトをしなくても、サイトを比較したり住宅情報誌である程度の情報は手に入るようになっています。
だからこそ、コンタクトしてくれたお客様は、「すでに何社かをふるいにかけ当社での家づくりをそこそこ真剣に考えている可能性が高い」・・・そうであるならば、何がなんでも契約を急ぎたい、それが営業マンの本音なのです。
契約金を払って、やっと詳細の打ち合わせに入る
多くの住宅会社は契約を取ることが最大の仕事ですから、詳細の打ち合わせに入る前に「まず契約してください」と言います。契約書にハンコを押し、たとえば100万円ほどの契約金を払って、やっと詳細の打ち合わせに入るわけです。
その時点で施主であるお客様の頭の中にイメージとしてあるのは、モデルハウスであり、カタログやホームページに載っている“わが家”です。しかし、それらは”わが家”とは違います。あくまでも宣材としてのモデルなのです。かかっている費用が違います。
その後、詳細を詰めていく段階で、あるいは建物が出来上がっていく段階で、その事実が徐々にわかってきます。いいことばかりが伝えられて、マイナス要因は決して積極的に伝えられることはないのです。
顧客用の発注書と業者用の発注書の「数字」が違う!?
随分と前のことですが、現場での打ち合わせ時に、ハウスメーカーの営業マンがファイルを忘れていったことがあり、ついつい中を見たことがあります。するとどうでしょうか。その内容と私たちがもらっている発注書の中身がかなり違うのです。私たちに対して発注された単価と、お客様に請求する単価が同じわけはありません。利ざやを抜くのは当然でしょう。ところがそれだけでなく、たとえば必要な部品や部材の箇所数や個数、あるいは平米数がまるっきり違うのです。
お客様としては、たとえば石膏ボードが何枚とか、壁紙が何平米とか、どの材料が何本といった数量を見積りで見ても、それが適正数量なのかを確認するすべはありません。しかし私たち業者は細かく数量を確認するので、業者への発注数量の方が正しいはずなのです。せこいと言えばせこい話ですが、そうしたことの積み重ねが無視出来ない金額の差になっていくわけです。
不安や疑問が払拭できず、不信感が募る施主
もちろん、お客様とのやり取りの裏側が私たちに知らされることはありません。ですから、こんなことも起きます。
仮にお客様から壁紙の平米数を聞かれたとします。「450平米と書かれているのですが、本当にそれだけありますか?」と聞かれ、実際は450平米ないので、正直に言うのであれば、「いや、400ないはずですよ」などと答えることになります。嘘をついて「はい」とは答えにくいですから、正直に答えるなと言われれば、口ごもるしかなくなります。
どちらを答えても、メーカーとしては不都合です。ですから、「直接お客さんと会話をしないように」という話になるわけです。お客様から質問をされても、「私たちにはわからないので、メーカーさんに聞いてください」ということしか言えなくなるわけです。
施主でありながら、不安に思っていること、疑問に思っていることがあっても、解消することが出来ません。誰も本当のことは答えてくれないのです。お客様にとっては八方塞がりと言える状態です。最初に生まれた不信感は、最後には猜疑心に変わっていきます。途中で誰も救ってくれない、救われるような事態に遭遇することがないからです。
残念なことに、アンケート調査においても、お客様の満足度がいちばん高いのは契約時なのです。そこをピークにして、ひたすら満足度は低下していきます。そんな現実に業界は慣れきっているのです。
基本的に「いいこと」しか言わないのが営業マン
住宅会社の営業マンは話術が巧みな人が多いです。
往々にして男性のお客様は高スペック好きで、工法や採用している資材、設備に興味とこだわりを持たれている人が多いようです。こうした男性には、スペックを持ち出し、どんな家でどう暮らしたいかという本来の趣旨から工法や設備比較へと話題をすりかえていく傾向にあります。
一方女性のお客様は空間としてのイメージや見た目のおしゃれさ、洗練された空間、使いやすさ、キッチン周りなどに興味を持つ人がほとんどと言っていいでしょう。その場合は、女性に気に入られる空間を造った事例を持ち出して「どう暮らしたいか」を「おしゃれに暮らしましょう」に巧みにすりかえます。
余分な説明は尋ねられない限りすでに承知であるとして一切しませんし、とにかく基本的にいいこと(メリット)しか言いません。
工事請負契約書にハンコを押したら、後は下請け任せ
工事請負契約書にハンコを押してしまったら、後は下請け任せ、それがほとんどの住宅会社の現実です。契約までは主人公、後は住宅会社主導なのでお客様は蚊帳の外。黙って完成を待っていてくれればいい、それがこの業界の慣習です。
つまり、この業界はギャップがつきものなのです。契約前と契約後の営業マンの言動のギャップ。設計段階での設計品質と、施工段階での施工品質のギャップ。そうしたギャップがあるということも、知っておくべきでしょう。
現場で施工しているのは、契約工務店・下請け・孫請け
繰り返しになりますが、どの大手ハウスメーカーであっても、現場で実際に家を建てているのはハウスメーカーなどから委託された多くの外注、いわゆる下請けの工務店などです。
自社設計・自社責任施工を掲げていても、外注業者は一つの現場あたり数十社に及び、忙しい年度末になれば外注業者からさらに外注された孫請け業者が現場に入ることが日常的です。つまり、どんなに有名な大手ハウスメーカーと契約したとしても、現場で施工しているのはハウスメーカーの社員ではなく、契約工務店やさらに下請け、孫請け業者なのです。
下請け時代、「大手ハウスメーカーなら、施工しているのも一流の業者さんばかりなのですよね?」と尋ねられたことがあります。残念ながら大手ハウスメーカーの契約工務店だから技術が優れているという根拠は、全くありません。また家の値段に比例して腕のいい業者が現場に入る、ということもありません。大手ハウスメーカーの建物の品質は均一だろうという話にもなりません。
同じ設計でも、正しく施工出来なかったら…
営業マンは、「マニュアル化されている」「工業化されている」と言います。確かにある程度の工程はその通りですが、最後まで機械が造るわけではありません。それぞれの現場で、それぞれの職人が手づくりで造り上げるのです。担当する大工が違えば、結果は自ずと違うものになります。
たとえ同じ設計でも、いくら優れた部材を使っても、施工する人間が指示通りに正しく施工出来なかったら、お客様の要望が現場の人間まで伝わっていなかったとしたら、家を建てるお客様、家を購入するお客様にとって本意とは言えません。
人間ですから間違いもありますが、目に見える欠陥でない限り、それをお客様は知ることもなく、表向きをきれいに仕上げてしまいさえすれば一生目にすることさえない可能性もあるのです。
他社の見積りを見せたら、500万円の値引きが実現!?
どのカテゴリーの住宅会社を選んでも、契約という一大イベントが待っています。契約にまつわる裏話はたくさんありますが、ここでは値引きについて伝えたいと思います。
値引きは契約前の切り札です。「他社の見積りを見せたら、500万円も値引きしてきた」といった話も聞きます。大きな金額を値引きされれば、誰だって嬉しいはずです。
しかしながら、値引きの背景には、注意すべき二つの要素が隠されています。どちらか一方である場合もありますし、両方の要素を含む値引きも考えられますので見極めが必要です。
一つ目は、そもそも値引きを前提に見積り額を高めに提示していて、大幅に値引きしたと思いこませるケースです。施主がいくつかの会社のプランと見積りを比較検討している場合、他社の見積りが出揃った時点で「当社に決めていただけるなら、ここまで特別にお値引きさせていただきます」と切り出してきます。
値引き分を費用に上乗せしてあったのですから、特別、住宅会社が困ることはありません。それに契約前であれば、まだ金額は決定しておらずあくまで見積り。今後オプションや附帯工事によっては、価格の変動が十分に見込まれます。ということは、オプションや附帯工事で金額はいくらでも変えることが可能になります。値引き額が想定金額より少なく契約でき、さらに大幅なオプションや附帯工事が必要になれば、住宅会社としては万々歳でしょう。
契約者に不平等感を与える「自社都合」の値引き
私が経験した中で、最大の値引き金額は1000万円でした。それは、私たちが、ある大手ハウスメーカーと競合したときのことです。旦那さんは当初ハウスメーカーを、奥さんとお子さんたちは私たちを希望され意見が分かれたため家族会議が開かれたのですが、見積り額に500万円の差があったので、一度は私たちに決まりました。
それを聞いたハウスメーカー側が、見積りを一気に1000万円下げ、私たちより500万円安い金額を提示してきたのです。
こんなふうに、競合が出現した場合は値引き合戦が激化する可能性が高くなります。しかし、私たちと競合しなければ、1000万円の値引きは行われなかったのです。
契約のために値引き合戦を仕掛け、自社都合で行う値引きは、同じハウスメーカーで家を建てたお客様に不平等感を与えると思います。あまりに大きな値引き額に不信感を持ち、このお客様は最終的には私たちを選んでくれました。
決算期の「値引き合戦」…しわ寄せは下請け業者へ
住宅会社の決算期には、値引き合戦が特に激化します。棟数や売上げが必要なので、利益が出なくてもいいと考えるのです。たとえばハウスメーカーからディーラーへの部材などの買い付け量があらかじめ決められている場合は、目標に到達しないと仕入れ単価が上がるという不利益がありますから、必死です。
もちろん、見積り額が低くなるだけであれば、お客様としては言うことはないでしょう。しかし、いくら赤字覚悟といっても、それでも少しは利益を残そうとするものです。そのため、そのしわ寄せは下請け業者などに行きます。それが考慮すべき二つ目の要素です。
発注金額の一律カットでやる気を失う契約公務店
私が経験したケースで言うと、ハウスメーカーから下請けへの発注金額が一律5%カットなどということがありました。ただでさえ下請けの利益は大きくありません。そこに持ってきて5%カットですから、現場のやる気もなくなります。
大手ハウスメーカーの契約工務店などは受注しなければ経営がなりたちませんから、しぶしぶ受けることになります。そうしたことが施工品質に影響しないとは言い切れないわけです。しかも短工期で済ませなければ割が合いませんから、一刻も早く終わらせたいという作業になります。そして、さらに工務店の利益を差し引いた金額で、技術よりも安さを重視した孫請けへ外注するといった悪循環が生まれるのです。
モチベーションとモラルの低い建築現場から、優れた品質が生まれるはずはありません。値引きという名の代償は、値引き以上の後悔につながりかねないのです。
値引きはその住宅会社の良心がわかるバロメーターです。正当な利益を工事費に組み込んでいれば、値引けない理由を説明でき、大幅な値引きは出来ないはずです。
建築請負契約を結べば、その後の不利益も「自己責任」
建築請負契約は、契約を結んだ段階でたとえその後に不利益が生じても、契約した当事者の自己責任とされてしまいます。きちんとした説明を受け納得して契約した場合も、内容が曖昧なまま勢いで契約した場合も同じです。
クレームとなる手抜き工事、または言った、言わないといった不安なやり取りや動向などは、契約するまでの打ち合わせの段階で、多くの施主が多かれ少なかれその予兆に気づいているはずなのです。「おかしいな」と思っても「このタイミングを逃したら・・・」などとスルーして契約してしまえば、それは気づかなかったのと同じです。時間がかかっても、この住宅会社なら大丈夫と確信し、本気で納得出来てから初めて契約する。大切な家を守るには、それしかありません。
一刻も早く「客と縁を切りたい」と思っている住宅会社
繰り返しになりますが、まだまだ多くの住宅会社が、お客様の利益よりも、自分たちの利益を大切にしている業界です。組織が大きくなればなるほど、お客様がなぜその「家」を建てようと思ったのかといった、背景や想いをわかろうなどとはしません。
さまざまなアンケート調査を見ると、その住宅会社を選んだ理由の第一位は「営業マンが気に入ったから」なのです。彼らは、「お客様とは一生のお付き合いです」と言います。そこまでではなくとも、「永いお付き合いになります」と言います。
しかし、大手ハウスメーカーなどの場合、営業マンは最長でも5年単位で異動してしまいます。馴れ合いを防ぐためです。お客様から評価される営業マンほど、そうした付き合いが足かせになって新規受注に影響が出てしまうからです。ですから、意図的に配置転換をして、過去のお客様を断ち切ります。そうして新規営業に力を入れるのです。
ある営業マンが「永いお付き合いをしたい」と本気で思っていても、住宅会社がそれを許さないのです。お客様には「一生のお付き合い」と言いながら、住宅会社は、一刻も早く現場を終わらせ、縁を切りたいと思っているものなのです。ですから契約を勝ち取れば、彼らは自分たちの仕事は終わったと判断します。残念なことですが、それが現実です。