機械の異常作動…「本当の原因」に気づかないまま
もしかすると、あなたの職場の建物でも発生しているかもしれない床の傾き・たわみ。それは、どのようにして発見すればよいのでしょうか。
俗に、ビー玉が勝手に転がれば…と言われますが、実際にはなかなかわかるものではありません。ところが、ほんのわずかな傾きでも、建物を使う人は何らかの"異変"を感じます。
人の感覚が認知できないようなわずかな傾きでも、どこかで確実に異変が現れるのです。次に、床の傾き・たわみが原因で建物内で起こるトラブルを、ケースを交えながらご紹介していきましょう。
まず、不同沈下の被害を受けやすい建物の代表格、工場の異変からご説明します。
そもそも機械というものは、工場で使うような大型のものでなくとも、傾きには弱い道具です。試しに、近くのコピー機や複合機を少し傾けてみてください。きっと、作動しなくなるでしょう。ますます高機能になっている最近の工作機械は、精密な据え付けが必要とされるようになっていますが、そもそも機械というものは、本来、水平な設置があってこそ正常な作動が保証されるものなのです。
問題なく動いていたものが突然止まる。動き出したかと思うと、アラートが発せられる。動いてはいるものの、主要機能は作動しない…。機械は、こうした異変によって床の傾きを伝えてきます。
多くの場合、最初に気づくのは機械のオペレーターでしょう。まさか不同沈下によって建物の床が傾いているとは知りませんから、スペーサーを機械の下に入れて水平を保とうとするのですが、不同沈下が進めばそれでは収まりません。
とうとう、稼動を止めて保守点検をしなくてはならなくなりますが、厄介なのは機械そのものが故障しているわけではないので、なかなか真の原因に行き着かないこと。試行錯誤が続いてしまいます。
気づいたときには会社の信用が損なわれる事態にも
すると、どうでしょう。今まで時間当たり、たとえば100個生産できていたものが、時間当たりの製造数にして9割に落ち、8割に落ちていく。納期に間に合わせるためには、稼動時間を増やすか、納品数を減らすしか方法はありません。
前者を選べば、エネルギーコストや人件費が膨らみ、間接コストが上がって利益率は下がります。納品数を減らせば、当然のことながら売上高が下がります。
納期の遅れや納品数の減少が続けば、お客様からの信用は間違いなく損なわれるでしょう。さらに、突然停止などが起こる機械では、不良品率も高まります。出荷前の検品で不良品が完璧に発見できるならまだしも、見逃され、それをお客様が発見するようなことになれば、その工場への信頼は急激に失墜してしまいます
同じようなことが、倉庫でも起こりうるのです。
昨今の倉庫は、高機能の自動ラックを設置しているところが多くあります。エレクトロニクス技術による巨大な機械が誤作動を起こす結果、入出庫に異変が生じ、不完全な在庫管理を招きます。また、機械が担うはずの入出庫作業に人手が必要になるようなことがあれば、倉庫全体のオペレーションを変えなくてはなりませんし、多大なロスを招きます。
工場、倉庫、どちらも機械がある建物での床の傾き・たわみは、多大な被害をもたらすのです。
もともと倉庫というのは、モノを一時保管しておくのが目的の建物ですから、内部空間を目いっぱい使うことができれば、それが理想的ということになります。目いっぱいは無理であっても、荷物の収容率が倉庫の事業計画の土台となっていることは、ここで私がお伝えするまでもありません。
ところが、そんな倉庫で不同沈下が起きると、その利用効率に障害が出てきます。もちろん工場のストックヤードなども同様です。床の傾き・たわみは、そこに収容できる荷物の量に直接の影響を与えてしまうのです。
傾いた床面に荷物を積むと、当然、その荷物も傾きますから、荷崩れを起こす危険性が高まります。自社の荷物であれ、お客様の荷物であれ、荷物を安全に保管するという、本来の役割を果たせません。
信用問題にも発展しかねませんから、それを避けるためには、積み段を少なくしたり、傾きの大きい区域を使用しないようにするしか解決策はありません。そうして、これまで100個積めていた荷物が90個に減ったとしたら、倉庫業であれば売上の10%減に直結するといわざるをえません。
床の傾き・たわみは、空間のロスを生みます。いわば空間そのものが商品ともいえる倉庫業では、大打撃であるに違いありません。
「床の傾き」のために三半規管や自律神経に変調が…
●CASE 床の傾きで健康被害、
社員から「気持ち悪い」という訴えが相次ぐ(金融業・A社・店舗)
企業が「傾いた床」を放置しておくと、どうなってしまうのか。その怖さが垣間見られた事例をまずご紹介します。静岡県にある、とある銀行では、そこで働く社員から、上司に「働いていると具合が悪くなる」という訴えが相次ぎました。会社側がその原因を調べたところ、どうやら床が傾いていることがわかり、私たちに修正の依頼が入ったのでした。そこで店舗の床レベルを測ってみると、基準となる位置から81ミリも傾いていることがわかりました[図表1]。
こうした傾きによる健康被害は、主に三半規管や自律神経に変調をきたすことで起こるといわれています。私たちは仕事で傾いた建物に入ることが多いため慣れており、加えて一時的にしかいないので健康に問題はありません。しかし、そこで日々長時間働いている人にはかなりの影響が出ます。症状の程度には個人差がありますが、知らぬ間にストレスが蓄積し、うつ病になってしまうこともあります。放っておくと非常に深刻な問題につながってしまうのです[図表2]。
会社側の視点に立てば、傾きを放置しておくことで、社員の作業効率は下がり、集中力の低下からミスも多くなってしまいます。また最悪のケースとして、社員に健康被害が現れ、労働基準監督署に訴え出られれば、損害賠償請求はもちろん会社の社会的信用に大きな傷がつくことにも成り得ます。
幸いなことに、A社は社員からの訴えを真摯に受け止め、健康被害が軽度なうちに手を打つことができました。もしもあなたの会社で同じような訴えがあったとしたなら、まず床面の傾きを疑い、できる限り早急に調査することをおすすめします。