「俺ばっかり貧乏くじだよ!」長男の横暴な言い分は…
「お父さんの遺言がないから、遺産分割を話し合わなくちゃいけないんだけど。私もそういうの疎(うと)いから、無料相談会で相談してみたの。そうしたら弁護士さんが『法定相続分』で分ければいいと教えてくれたの」
そう言って母の清子は、弁護士との話をまとめたメモを読み上げた。続いて淳次が、清子の言った話を要約する。
「要するに遺言がない場合、民法で『法定相続分』という遺産分割基準があるから、それに従えってことだね。これによると配偶者つまりお母さんが2分の1、僕ら兄弟が残り2分の1を分けるってことだよね。まあ、それでいいんじゃないの」
すると、黙って話を聞いていた一樹が不満そうに口を開いた。
「母さんが2分の1を相続するのはいいけど、残り2分の1を俺と淳次で分けるってことだよな?」
「うん。つまり、それぞれ4分の1ずつ受けとるってことだね。それでいいんじゃないかな」と淳次。
「ちょっと待てよ。なんでお前と俺が対等なんだ? 俺は長男だし、お前んちは金も家もあるんだから遺産なんかいらないだろ」
突然、乱暴なことを言い出した一樹に清子は慌てた。
「ちょっと一樹、何を言い出すの。あんただってお金も家もあるでしょ」
「はぁ、うちはオンボロだし、定年退職したから、これからは年金暮らしだよ。だいたい父さんも母さんも淳次には甘過ぎるんだよ。いつだって俺ばっかり貧乏くじだよ!」
一樹は怒りを爆発させ、積年の恨みを一気に並べ立てた――。
■一時相続は決着しても兄の不満は収まらず
「つまり、お兄さまは高卒で就職したのに、淳次さんは一流大学に入った上に、大手商社に就職できた。自分だって大学に行かせてもらえれば、大企業に入って裕福な生活が送れたはずだと。これがお兄さまの主張ですね。たしかに理不尽ですが、お兄さまの頭の中では、その考えが正当なんでしょうね」
私は、淳次さんに同情しました。
「そうなんです。だから自分は遺産をたくさんもらう権利があると言い出し、もう何を言っても聞いてくれませんでした」