本記事は、貞松信人著『「家づくり」は住宅会社選びで9割決まる』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

20年、30年…家族の人生まで左右する買い物

人生で最も高額な買い物は、住宅と言われていますが、実は「住宅ローン」という名の金融商品でしょう。

 

ごく一部の人を除いてほとんどの皆さんが住宅ローンを利用される今、20年、30年という長期にわたり、膨大な金利を含め、支払いを続けなければなりません。場合によっては契約された当人だけでなく家族の人生まで左右する買い物とすら言えるでしょう。

 

数千万円という単位は、普通の人間の金銭感覚を麻痺させるに十分な金額です。そのため、そこでの数十万円、場合によっては数百万円ですら、高い金額だとは思えなくなってしまうものです。その結果、ときには必要以上の無理をしてしまうこともあるのです。

 

人生で最も高い買い物は、「家」ではなく「住宅ローン」という金融商品だ。 (※画像はイメージです/PIXTA)
人生で最も高い買い物は、「家」ではなく「住宅ローン」という金融商品だ。
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

現在、家を建てるための土地を所有していなければ、土地を探すことはもちろん重要です。それは今後、どこに住むのかということを意味するわけですから、もしかしたら「家」という建物以上にライフスタイルやライフプランを左右する問題かもしれません。ですから土地選びは慎重のうえにも慎重であるべきでしょう。

 

土地を探すためには、不動産会社か土地も同時に扱っている住宅会社をあたるのが一般的です。今住んでいる場所の近くで考えるのであれば、新聞折込みなどのチラシが有力な手がかりになるでしょう。あるいは、住んでみたい地域の不動産会社を訪ねるというケースが多いと思います。

 

ここでは、あえて気をつけたいケースについて紹介しておきます。

「土地+建物」の総額が詳細になってから契約を

「この土地ならご希望の広さの建物が十分建ちますよ」という営業マンの話から、その土地の購入契約をし、その後ハウスメーカーや工務店をあたったところ、予算の残金では希望の建物を建てることが出来ず、高額な手数料などを二度払いして土地をもう一度売りに出すというケースも実際に聞きます。また、家づくりに費やすべき十分な資金が残っておらず、限られた資金でイメージとはほど遠い家づくりをするしかなくなり、悔やんでいるというケースも少なくありません。

 

これは、その土地に建物を建てた場合の「土地+建物」の総額の費用がきちんと揃う前に、土地だけで契約をした場合に起こることです。土地の契約を先行する場合でも、契約は土地+建物の総額が明らかになってから行うのが賢明と言えます。

 

土地+建物の総額がある程度明確になる前に、とにかく契約を急がせる住宅会社があるとしたら、それはあまり好ましくない住宅会社だと感じます。

土地と建物を別々に契約する場合、住宅ローンも別に

さて、ここでやっかいなのが住宅ローンです。土地と建物を別々に契約する場合、住宅ローンも別途の契約になります。住宅情報誌などでも住宅ローンの特集は毎月のようにありますが、このことはあまり知られていません。

 

最初の支払日までに必要なローンを提供してくれる金融機関探しは、不動産会社や土地を扱う住宅会社の多くが代行してくれます。それは助かるのですが、期待値が高まる分、「これだけ借りられたから建てられる、購入できる!」とすでに家づくりの半分が終わってしまったかのような錯覚に陥らない冷静さが必要です。

 

そして、土地の住宅ローンの支払い期日が迫っているからと、家づくりのパートナー選びを冷静に比較検討することなく、住宅会社を慌てて決めてしまうことのないようにもしたいものです。

 

そうしたことがあるため、基本的には土地探しと住宅会社選びは、同時進行で進めるべきだと思います。もちろん、契約を取りたい不動産会社などは、あの手この手で契約をせかすことでしょう。ただ、それに惑わされる必要はありません。確かに、条件のいい土地には早く手付けを打つべきというのも事実です。そこの兼ね合いは簡単ではありませんが、とにかく必要以上に焦らない。それが鉄則ではないでしょうか。

本当にある!不動産会社のズル賢い手口

もう一つ重要な注意点があります。不動産会社も、土地だけでなくできれば建売り住宅を売りたいと思っているところが多いものです。そのため、たとえばお客様が注文住宅を建てるために土地を探していたとしても、建売りを必死に勧める場合があります。そして、どうあっても建売りは勧められないとなると、今度はそのお客様の出し得る資金のどれだけを土地に取れるかという動きをし始めます。

 

また、建築条件付き、つまりは、この土地に家を建てる場合は特定の会社で建てることを条件としている土地も少なくありません。

 

そこでもう一歩踏み込んで気をつけるべきことは、「参考プラン」です。これは建築条件とは謳っていなくても、その土地=不動産会社がある特定の住宅会社と提携している証拠なのです。その参考プランの参考価格はなぜか非常に安いのです。

 

それを見て、「この価格でこの家が建てられるならばこの土地を買えるな」と思ってしまい、追い打ちをかけるように、「建築条件はありませんので、好きなメーカーで家を建ててください」などと言われて契約をしてしまっても、他の会社ではとてもその価格では同じようなプランの建物を建てることは出来ないと後でわかります。そうなってしまったら、その参考プランを出している会社に結局、依頼するしかなくなるわけです。

 

ある会社の場合、坪当たり5万円の謝礼を不動産会社に払っていると聞きます。30坪であれば150万円です。そもそも考えられないくらいのローコストの価格の家なのに、そこから150万円をいわば紹介料として払っている。一体、どんな部材でどんな家づくりをしているのか心配でなりません。営業マンはいらないビジネス形態ですから、そこでコストを圧縮しているのかもしれませんが、謎です。

 

不動産会社の手口には、こういうものもあります。最初に条件を提示しても、素直にその条件に合う物件には案内をしません。条件に合わないものから見せていき、疲れて諦めモードに入った辺りで本命を出す。すると、お客様の目が輝く。これを業界用語で「感度が出る」と言うそうです。そこで事務所と電話連絡を取り合って、他の人が買おうとしているという小芝居を打つ。テレビ番組などでも喧伝されている方法ですが、本当にあるのです。早く契約させようという手ですが、こういう手に乗ってはいけません。

ライフシミュレーションの落とし穴

住宅ローンを組むにあたり、最近では銀行や住宅会社が窓口となり、FPによるライフシミュレーションを行うことが多くなっています。ライフシミュレーションとは、10年、20年、30年先にわたって、家族構成や収入・支出をもとに総合的なお金の動きを予測するシミュレーションのことを言います。

 

インターネット上でも条件を入力すればシミュレーションが出来ますから、家づくりや購入を考え始めた段階で自分なりの大まかな見通しを持って臨んでいる人も多いことでしょう。

 

ただ、こうしたライフシミュレーションにも、思わぬ落とし穴が隠れていることがあります。ハウスメーカーなどの主導のもと無料で行っているシミュレーションの中には、「家」を建ててもらうための誘導ツールになっているケースもあるのです。お客様のライフシミュレーションに欠くことのできないFPですが、会社によっては、契約に際して背中を押す役目になっている場合も実は少なくないのです。「大丈夫ですよ」と言わされる役目です。これでは全くライフシミュレーションの意味がないどころか、その結果、早い段階に、高い金額で家を建てられると錯覚してしまうケースも散見され、いささか背伸びをして、無理をしてしまうことにもつながります。

 

よほど金融に長たけた人でない限り、ライフシミュレーション表を目の前にして、その道のプロフェッショナルから饒舌に解説されれば、何も言えなくなってしまうのが普通です。では、本来のライフシミュレーションの役割と正しい見方、使い方とは、どのようなものなのでしょうか。

ライフシミュレーションは、家計の今をチェックし、将来を予測することによって安心して返済出来る金額を導き出すためのものです。また、シミュレーションを通して、総合的なさまざまな問題点とその対策が明確になります。

 

たとえば、仮に子どもが私立大学に進学した場合は年度収支がマイナスになってしまう、住宅ローンが退職後も続くなど、家族ごとのさまざまな問題点が明らかになってくるのです。そのため、あらかじめ、今後想定出来る出費に対して貯蓄や繰り上げ返済といった対策を講じるタイミングも明確になるはずです。

 

自分らしい暮らし方の夢を描く「ライフデザイン」、何年後にどのようなことが想定されるのか、いつお金が必要になるのかを将来にわたって予測する「ライフプラン」、現在の暮らしと将来のライフプランに基づいて長期的な家計収支を見通し、問題点をチェックして対策を立てる「キャッシュフロー・マネジメント」。

 

その3つの項目を総合的にわかりやすく活用するのが、正しいライフシミュレーションと言えるでしょう。

「借入れ出来る金額」と「返済出来る金額」は違う

また、「借入れ出来る金額」と「返済出来る金額」は同じではありません。借入れ可能額は、返済比率(返済負担率)で決まりますが、数字だけを見れば、同じ年収、同じ借入れ期間であれば、借入れ可能額は同じになります。しかし、同じ年収で「子どもがいない家庭」と「子どもが二人いる家庭」とで、はたして返済可能額は一緒なのでしょうか。進学による教育資金という大きな出費を抱えて、借入れ可能額の上限まで借りてしまって、収支バランスは崩れないのでしょうか。
 

借りられるならば建てられる。しかし、お子さんが幼稚園や小学校の間はよくても、中学、高校、大学と進んだ将来、返せなくなってしまったという人はたくさんいます。将来にわたって、家族にとって理想的な生活を送るために新居を建てるわけです。そこが本末転倒になってしまっているケースがあまりに多いのです。

 

あるいは、借入れ可能額の上限いっぱいまで借りてしまったうえ、その後、転職などによって収入が減ったことにより大切な家族や趣味に使うお金が全くない……という人も増えています。

 

先行き不透明な経済や雇用問題など、不安要素が多い現代だからこそ、目先の借入れ可能額や返済額だけに一喜一憂することなく、家族の時間や趣味を楽しめる暮らしを送ること、それも家づくりの大きな要素となっている点を忘れないでほしいと思います。

 

もう一度立ち止まって考えてみてください。いくら借りられても、借りてはいけないラインというものが必ずあるのです。まずは老後に至るまで、どんな生活を送りたいのか。それが最優先です。そのために必要なお金には一切手をつけずに住宅の取得計画は進められなければなりません。その資金返済プランであれば、思い描いている生活ができる。そのラインがわからずに土地の購入や住宅建築の契約などはできるはずがないのです。

 

しかし業者側の誘導でそこを間違えると、もう行きつけるべきところまで行きつくことができなくなり、途中で行き止まってしまいます。

 

だからこそ、まずはライフシミュレーションから入るべきなのです。もちろん、背中を押す役目ではなく、誠実なFPの手によるライフシミュレーションです。それにより、どこまで本当にお金をかけていいか、身の丈に合った住宅の取得、そのためのマックスの予算をまずつかんでほしいのです。

 

FPが真剣にお客様の立場に立ってシミュレーションをした結果、残念ながら、わざわざ注文住宅を建てたいと来ていただいたお客様に、その注文住宅を諦めていただくしかないという結果になることもあるはずです。しかし、それが本当の相談というものではないでしょうか。

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