根っからの技術者の経営者が抱え込んだ「多額の負債」
前回の続きです。種類株式を活用することになる事案について、まずその概要を説明します。
株式会社亀山技研(K社)は、高い技術を持つ金属製品加工業ですが、オーナー経営者で、全株式(800株)を保有している亀山恵一は根っからの技術者であり、経営管理能力に欠ける傾向があって、今般も亀山の独断で、本業に全く関係のない海外投資に手を出して失敗、多額の負債を抱えて経営危機の状態を迎えてしまいました。
K社の発注元の一つである山村金属工業(Y社)の経営者である山村克治は、K社の高い技術を評価しておりM&Aも検討してみましたが、自社の事情から完全にK社を買収することは難しいとの結論に至っています。
そこで山村は、K社の窮地を救うための資金を出資する代わりに、自らK社の役員となって経営陣に加わることによって、今後再び亀山が独断で誤った経営判断を行わないよう監視しておきたいと考えて出資の提案をしたところ、亀山も今般の経営判断の失敗を深く反省しており、今後は慎重な経営に努めることを約束した上で、Y社の申し出を受け入れることとなりました。
[図表1]K社決算書(○○年7月末日)
[図表2]K社資金繰り予定表(○○年8月以降予測)
発注元が支援するも適正出資価額では株保有数が不足
このままでは本年11月には資金ショートが発生する見込みなので、山村はK社を支援するため、10月までに2,000万円の出資を考えています。
しかし、適正出資価額である1株あたり5万円で出資すると、2,000万円で400株となり、亀山の保有する800株に対して3分の1の割合しか占めることができず、このままですと、ほぼすべての決議につき、Y社側の意見が反映できないということになってしまいます。
もちろん、山村は善意で出資をしてK社を救済するのが目的ですから、亀山がY社の意見を無視して独断専横することや、取締役として経営陣に加入する山村を解任するようなリスクを今は懸念していませんが、法的に不安定な状況であることには一抹の不安を感じています。
また山村は、Y社がK社の株主となり、かつ山村個人がK社の取締役に就任することで、対外的に「乗っ取り」と誤解されることも避けたいとも感じていますので、日常的な経営判断については亀山に一任し、重要な決議についてのみ、Y社の意向を反映させるようにしたいと考えています。
次回は、今回のケースについて、どのように種類株式を活用して問題解決を図ったか、具体的な手法を見ていきます。