遺言の「付言事項」で相続の揉め事を完全に回避
前回に引き続き、小松工業株式会社事業承継の対策について見ていきます。
竜一の死亡後、K社使用不動産の受益権のうちの5分の4相当のみが正次郎が取得する相続財産となり、その他の全財産及び生命保険金と死亡退職金は新太郎が取得しました。
竜一が生前に生命保険に加入していたこともあり、正次郎は遺留分を上回る価値の受益権を取得することとなって、遺留分減殺請求はできず、かつ取得した財産は受益権なので、受託者として名義を保有しているK社が工場として使用するにあたっての支障は発生しません。
しかし正次郎の相続税の納税資金が不足したため、K社の後継者となった新太郎の判断で、正次郎の受益権を4000万円でK社が買い取ることとし、納税資金を除いても約3000万円の現金を正太郎が取得することになりましたので、竜一の遺言による付言事項の効果もあって、兄弟は和解し、相続に際しての揉め事を完全に回避することができました。
新太郎は父が念のために仕組んでおいた種類株式と民事信託を解除し、K社の二代目オーナーとしての地位を確実なものとすることとなったのです。
生命保険の活用では保険料として「現金」が必要に
以上のように、事業承継の局面においては、生命保険が活用できるばかりではなく、本連載で紹介してきた種類株式や民事信託や遺言等を併用することによって、相続に伴うもめ事の予防や、相続税納税対策にも使うことができます。
他にも、会社で加入した生命保険契約を経営者や後継者が個人として譲渡を受ける方法などの各種節税手法もあるので、保険のことはもちろんとして、財産管理や会社経営全般に関する知識を持つ専門家に相談してみられることをお勧めします。
ただ、生命保険契約は継続的に保険料という名目で現金が出て行くこととなりますので、特に会社が保険契約者となる場合には、資金繰りとの兼ね合いを十分に検討しておく必要があることを忘れてはなりません。