「企業再編」にM&Aは決して必須ではない
今後の中小企業においては、企業再編が必要になると言われています。何故なら、我が国では人口減少や長期不況による経済規模の縮小に比較して、まだ会社の数が多過ぎるからです。
これまでは、経済規模の縮小につれて、いわゆる「弱い企業」から順番に倒産してゆくか、あるいは弱い企業が「強い企業」に呑み込まれるか、いずれかの運命を辿るのが通常でした。
しかしそれでは、せっかく苦労して人材を集め、技術を熟成し、理念を構築してきた中小企業の人材も技術も理念も全て消滅したり散逸したりしてしまう可能性が高くなってしまいます。また倒産企業が増えることは社会経済的にも大きな損失となり、国家全体に悪影響を与えることになります。
近年では、事業承継の選択肢として、M&Aが有力な手法として認識されるようになってきています。確かに、後継者のいない会社が事業全体を他社に売却するケースや、経営不振に陥ってしまった会社が優良な事業部門を他社に売却して資金化するケースとかについては、M&Aは重要な役割を担うこととなります。
しかし、一般的に中小企業の世界でM&Aが簡単かつスムーズに実行され、かつM&A実行後に、その事業自体や携わってきた従業員が幸せな結果を得ているかと言えば、必ずしもそうとは言えない現状であると思われます。
実は企業再編には、単なる約束事である「互助互恵」から、完全に会社が一つになる「合併」に至るまでの段階に応じて10種類もの手法があり、その段階によって異なる目的や対応があり、いわゆるM&Aと呼ばれている事業譲渡は、その中の一手法に過ぎないのです。
その意味から、必ずしもM&Aに至らなくても、様々な形態の企業間連携が実現できる可能性があり、そういった場面でも種類株式を活用することができるのです。
企業再編には「企業間連携」が何よりも重要に
企業間連携という部分では、先にご紹介した取得請求権付株式を活用して中小企業間で直接投資を行うことも可能ですが、必ずしも先の事例のように支援する会社と支援される会社の間に厚い人間関係が存在するケースばかりではありません。
そのため、もっと汎用的に、連携する両社が純粋な経済活動として、種類株式による投資という形を取る手法も検討しておく必要があり、そこでも新たな種類株式の活用が考えられるのです。
会社法制定当初、一部の出版物やセミナーでは「黄金株」という用語が話題になっていました。
これは会社法では「拒否権付株式」と呼ばれる種類株式のことで、たった1株だけで、株主総会の決議はもちろん、取締役会の決議までをも拒否できるという絶大な効力を持つ株式として規定されており、最初はいわゆる「敵対的買収対策」として紹介され、やがて事業承継の局面において「後継者がまだ完全に信頼できない際に先代経営者が黄金株を所持して監視する」という使い方がすすめられるようになってきました。
ただし、意外に気付かれていないリスクとして、種類株式の内容はすべて会社の登記事項証明書に記載され、誰もが閲覧することが可能となるので、例えば先代経営者が後継者を監視するために黄金株を設定したケースであれば、その登記事項を見た第三者は「この会社の後継者は信頼されていない」「まだ先代が院政を敷いていて、実権がどちらにあるのかわからない」といった判断を下すことになり、会社全体の評価や信頼度が下がってしまうことがあるのです。
次に「役員選解任権付株式」ですが、これは特定の株主だけで決議して一定数の取締役または監査役を選任及び解任できるという種類株式となっており、これも一般的には「乗っ取り防止」とかの敵対的株主対策として紹介されているケースが多いようです。
しかし、我が国の中小企業においては、アメリカとは違って株主が派閥に分かれて敵対的な状況になってしまうこと自体が経営面での大きなマイナスとなりますので、そもそもそうならないような対策を講じることが先決なのではないでしょうか。
その意味から、拒否権付株式や役員選解任権付株式については、敵対的株主対策とか後継者の監視とかで使うのではなく、例えば出資元や提携先との連携強化のために使うなどの、誰が見ても不信感を抱かないような「大義名分」が必要であると考えます。
次回は、円満な企業間連携であり、かつ相互の信頼をベースにしながらも、対内的にも対外的にも納得されるような種類株式の活用例を紹介します。