「父が決めたことだから」安穏家庭が激変、泥沼へ…姉妹の絶望

高齢化の進展や遺産分割トラブルの増加に伴い、「公正証書遺言」の作成件数が伸びています。遺言手段として安全かつ確実ともいわれる「公正証書遺言」ですが、実は無効となるケースが少なくありません。被相続人が認知症になった場合に問われやすい、遺言書の効力について解説。※本連載は、OAG税理士法人取締役の奥田周年氏監修の『親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7』(ビジネス教育出版社、『暮らしとおかね』編集部)より一部を抜粋・編集したものです。

高齢化に伴い、遺産分割トラブルが増加中

遺言書は、認知能力がしっかりしているときに書くものです。しかし中には認知症を発症してから、書かれたものではないかと疑われるケースがあります。相続人が遺言書内容に疑問を持ち、遺言無効確認訴訟を起こすことがありますが、最終的には裁判所がその是非を判断します。

 

 

遺言書は、本人が亡くなった後に自分の意思を実現させるために残すものです。遺言書がなければ、相続人全員による遺産分割協議が行われて、何をどのように分けるかを話合いで決めていきます。相続人全員の合意により、分割協議がまとまるのが最善ですが、合意に至らず、仲のよかった実の兄弟姉妹らが、反目しあう骨肉の争いになることもあります。それが相続ならぬ「争族」と言われるものです。

 

「争族」は、高齢化を背景に増加傾向にあります。ことに遺産分割に関するトラブルは、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の新受件数のみを見ても、2001年が1万988件、2016年には1万4662件と、15年の間におよそ3割増加しています。

 

そうした遺産分割のトラブルを避けるために一定の効果があると考えられるのが遺言書です。しかし日本ではまだ亡くなる人の1割程度の人が利用するだけにとどまっています。たとえば2016年の死亡者数は130万7765人(出典「人口動態統計月報年計」)。左のグラフからわかるように、その年作成された公正証書遺言と自筆証書遺言検認数は12万2555件。もちろん事故などで急に亡くなった方も含まれるので正確な数字は不明ですが、亡くなる方で遺言書を残すケースは多くはありません。

 

仲のよかった実の兄弟姉妹らが骨肉の争いを繰り広げる…相続の実態 (※写真はイメージです/PIXTA)
仲のよかった実の兄弟姉妹らが骨肉の争いを繰り広げる…相続の実態
(※写真はイメージです/PIXTA)

安全で確実な「公正証書遺言」が無効となるケースも…

遺言書を書く人の数は多くはありませんが、公正証書遺言が作成される件数は現在、10年前の約1.5倍になっています。公正証書遺言は、公証人役場で、証人2名とともに作成するため、自筆証書遺言と比べて、安全で確実な遺言方法と考えられます。
 

出典:公正証書遺言数(左軸)は日本公証人連合会資料。検認数(右軸)は司法統計(家事事件編)
[図表]遺言書をつくる人は増加傾向にある (左軸)は日本公証人連合会資料。検認数(右軸)は司法統計(家事事件編)
出典:公正証書遺言数

 

ところが公正証書遺言の件数が増えるのに伴い、「遺言無効確認訴訟」も少なからず起こっています。

 

普通、公正証書遺言は公証人によって作成されるので、形式上の不備で無効になることはありません。ただし、遺言書を書いた人の判断能力の低下、欠如が疑われる場合、無効になることがあるのです。

 

『【マンガを見る】認知症の時期に書いた父の遺言内容が信じられない!』のように、遺言書に書かれていることが、故人が元気なときに話していた内容と明らかに違う場合、おかしいと思った相続人は「書かれた遺言が無効である」という「遺言無効確認訴訟」を提起して、その遺言書が無効であることを確認する裁判を起こすことができます。

 

これまでも、特定の相続人のみに非常に有利な内容だったとか、当時認知症の症状が進んでいたにも関わらず、遺言内容が複雑で信ぴょう性がないといった理由などで公正証書遺言を無効とした裁判例があります。遺言作成者が認知症で、判断力が低下している場合、公証人は遺言書作成を断るケースが一般的ですが、判断能力にムラがあり、公証人がその症状を適切に見ぬけない場合もありえます。

最終的には裁判所が判断

遺言者に遺言能力があったかどうかは、最終的には裁判所で判断されることになります。無効を訴える場合は、当時の医療機関の診察記録や介護施設や介護記録などを取り寄せて、当時すでに判断能力が低下していたことを証明する必要があります。市区町村から届く介護保険の認定調査票も役立ちます。故人の意思の伝達やお金の管理、日常の意思決定などの能力を評価した結果が載っているので、故人の判断能力が十分あったのか判断する資料となります。

 

難しいことは、認知症と判断されても、実はまだ認知症のごく初期で判断力はある場合もあることです。そのため裁判所では、遺言書の内容や、当時の故人の年齢、心身の状況、本人の遺言への意向、遺言者と相続人との関係などを総合的に見て、遺言書が無効か有効を判断していくことになります。

 

 

【監修】奥田 周年
OAG税理士法人 取締役
税理士、行政書士


【協力】IFA法人 GAIA 成年後見制度研究チーム


【編集】ビジネス教育出版社 『暮らしとおかね』編集部

 

OAG税理士法人 取締役 税理士
行政書士

1965年生まれ。茨城県出身。1988年、東京都立大学経済学部卒業。1994年、OAG税理士法人(旧・太田細川会計事務所)入所。1996年、税理士登録。2018年、行政書士登録。

現在、OAG税理士法人チーム相続のリーダーとして、相続を中心とした税務アドバイスを行うとともに、相続・贈与等の無料情報配信サイト「アセットキャンパスOAG」を運営。また、同グループの株式会社OAGコンサルティングにて事業承継のサポートを行う。

【主な著書】
『身近な人の遺産相続と手続き・届け出がきちんとわかる本』(監修)、『身内が亡くなった時の手続きハンドブック』(監修)、『葬儀・相続手続き事典』(以上、日本文芸社)
『Q&A相続実務全書』『Q&A株式評価の実務全書』(以上、ぎょうせい)
『法人税の最新実務Q&Aシリーズ借地権』(中央経済社)
『資産5000万円以下の相続相談Q&A』(監修・ビジネス教育出版社)

【運営サイト】
相続・贈与から資産に関する疑問までわかりやすくお伝えする無料の専門サイト
『アセットキャンパスOAG』:https://asset-campus-oag.com/

著者紹介

連載家族が認知症になると「できない相続」がある!認知症700万人時代の相続

親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7

親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7

監修:奥田 周年
執筆協力:IFA法人 GAIA
編集:『暮らしとおかね』編集部

ビジネス教育出版社

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