「言葉が出ない」ことを恐れないで
アメリカの心理学者のウォーデンは〝喪の課題〟として、大切な人を亡くされた方の4つの課題を挙げています。喪失の現実を受け容れること、悲嘆の痛みを消化していくこと、故人のいない世界に適応すること、新たな人生を歩み始める途上において故人との永続的なつながりを見出すことの4つです。
もちろん大切な人を亡くされた方の長く続く悲しみを、専門的技術を用いてケアする専門家に委ねることも重要だと思います。また同じ立場の方が集まってお互いをケアする遺族会というものもあり、インターネットで探せば参加可能なものがいくつか見つかるはずです。
しかし、時間をかけて、悲しみを消化し、新しい物語を再構築するという作業が、大切な人を亡くされた方の心をも和らげるのは、これまでみてきた傾聴の力の例外ではありません。正しい傾聴を行えば、どんな方でも、大切な人を亡くされた方の苦しみや悲しみを和らげる支えになることはできると思います。
どうか言葉が出ないことを恐れずにことにあたってほしいと願います。沈黙は傾聴の中に含まれます。そして、沈黙も大きな力を持っています。言葉が出ないことも、大切な人を亡くされた方の支えになり得ます。
そして「私は今も、絶望の淵に立つあなたに語れるどんな言葉もありません。私が今まで経験した全ての理不尽でひどい時間を百万倍にしたところで、あなたの絶望にはけっして届かない」と思うことこそが、支えの第一歩なのですから、できることは誰にも必ずあるのです。
大津 秀一
早期緩和ケア外来専業クリニック院長
緩和医療専門医