景気低迷、コロナ禍、少子高齢化・多死社会の到来…。悩み多き現代、心を健やかに保つには、周囲の人たちとの絆だけでなく「お互いを支える技術」が大切です。ここでは、医師として終末期医療、緩和ケアの第一線で活躍し、患者やその家族と深い信頼関係を築いてきた筆者が、相手に寄り添い信頼関係を深める対話術、「傾聴」を軸としたコミュニケーションスキルを紹介します。※本記事は、『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』(大和書房)から一部抜粋・再編集したものです。

「言葉が出ない」ことを恐れないで

アメリカの心理学者のウォーデンは〝喪の課題〟として、大切な人を亡くされた方の4つの課題を挙げています。喪失の現実を受け容れること、悲嘆の痛みを消化していくこと、故人のいない世界に適応すること、新たな人生を歩み始める途上において故人との永続的なつながりを見出すことの4つです。

 

もちろん大切な人を亡くされた方の長く続く悲しみを、専門的技術を用いてケアする専門家に委ねることも重要だと思います。また同じ立場の方が集まってお互いをケアする遺族会というものもあり、インターネットで探せば参加可能なものがいくつか見つかるはずです。

 

しかし、時間をかけて、悲しみを消化し、新しい物語を再構築するという作業が、大切な人を亡くされた方の心をも和らげるのは、これまでみてきた傾聴の力の例外ではありません。正しい傾聴を行えば、どんな方でも、大切な人を亡くされた方の苦しみや悲しみを和らげる支えになることはできると思います。

 

どうか言葉が出ないことを恐れずにことにあたってほしいと願います。沈黙は傾聴の中に含まれます。そして、沈黙も大きな力を持っています。言葉が出ないことも、大切な人を亡くされた方の支えになり得ます。

 

そして「私は今も、絶望の淵に立つあなたに語れるどんな言葉もありません。私が今まで経験した全ての理不尽でひどい時間を百万倍にしたところで、あなたの絶望にはけっして届かない」と思うことこそが、支えの第一歩なのですから、できることは誰にも必ずあるのです。

 

 

大津 秀一

早期緩和ケア外来専業クリニック院長

緩和医療専門医

 

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

大津 秀一

大和書房

相手が元気になる「聴き方」。医療・介護現場のプロが必ず実践している、本当の「聴く力」とは? ●大切な人の悩み相談に真剣にこたえている ●自分なりに一生懸命アドバイスもしている なのに、相手が元気にならない……

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