景気低迷、コロナ禍、少子高齢化・多死社会の到来…。悩み多き現代、心を健やかに保つには、周囲の人たちとの絆だけでなく「お互いを支える技術」が大切です。ここでは、医師として終末期医療、緩和ケアの第一線で活躍し、患者やその家族と深い信頼関係を築いてきた筆者が、相手に寄り添い信頼関係を深める対話術、「傾聴」を軸としたコミュニケーションスキルを紹介します。※本記事は、『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』(大和書房)から一部抜粋・再編集したものです。

 

まずは、ネガティブな感情をぶつけられた時に、その「嫌だなあ」という気持ちもまたしっかり認識することです。少し離れたところから自分を見ているイメージでしょうか。客観視しようとすることです。これで感情の初発反応を防ぐことができます。

 

誰でもネガティブな感情をぶつけられ、自分に苦悩者の苦の責任の一端があるかのように言われれば冷静でいられないのはよくわかります。しかしここで自分もその気持ちにとらわれてしまったら、無意識に苦悩をさらに広げんとしている苦悩者の思うつぼで、誰も救われません。「そうですか」と受け止め、これまで述べた技法も使用することです。

 

正当化

苦悩者の感情面の体験を理解し妥当だと認める(例「そのように思うのは当然ですね」)

 

個人的支援

苦悩者の支えになろうという思いを伝える(例「何とか○○さんの苦しみが楽になるための助けになれればと願っているんですよ。私は味方ですよ」)

 

協力関係

協力して苦しみに対応しようと伝える(例「私は一緒に苦しさを取り除いていきたいと思っていますよ」)

 

以上が伝えられる言葉です。

 

こちらが穏やかに、冷静に対応し、相手の「怒りのコップ」を空にすれば、多くの方は落ち着きます(逆にこれで落ち着かない場合は無理しないで、専門家などに委ねたほうが良い場合もあります)。

 

ただそれでもなかなか対応が難しい相手もいらっしゃるのも事実です。

 

そのような場合もあることを見据えて、前述の儀賀先生に教えていただいた方法ですが「素で勝負しない」法(これも3S法)というものを体得しておくと良いでしょう。

 

素で勝負しているから、自分にネガティブな感情をぶつけられると、自らが否定されているように感じて傷つくのです。苦悩者を支える時には、「苦悩者を支える援助者である私」という素晴らしい役割を演じていると考えることで、直接的な自らへのダメージを抑えることができるのです。否定されているのは、あくまで「援助者である私」であって、自分そのものではない、そう捉えることができれば、ネガティブな感情に包まれることも少ないのではないでしょうか。

 

人と人が相手の世界ですから、「頑張ったのに報われない」ということも経験数が増えればあるのは当然だと思います。私自身もそういう経験は少なからずあります。けれどもそれは決して自分そのものが否定されているのではない、と捉えることで、次の苦悩者の支えとなる力を取り戻すことができるのではないでしょうか。

 

とにかく援助者は、とりわけネガティブな感情(苦悩者への、だけでなく、周囲への、も含めて)にとらわれないように、自らの気持ちをモニタリングして健康を保つ必要があります。その際に、「素で勝負しない」のは一つの方法となるでしょう。

 

 

大津 秀一

早期緩和ケア外来専業クリニック院長

緩和医療専門医

 

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

大津 秀一

大和書房

相手が元気になる「聴き方」。医療・介護現場のプロが必ず実践している、本当の「聴く力」とは? ●大切な人の悩み相談に真剣にこたえている ●自分なりに一生懸命アドバイスもしている なのに、相手が元気にならない……

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